初めて彼女と会ったのは、昨年の春でした。虐待された経験のある若者たちを追ったドキュメンタリー映画「REALVOICE」の上映会が都内で行われた際、たまたま彼女の隣に筆者が座ったのです。
優しそうな雰囲気のその女性は、監督らによるトークショーの質問時間に手を挙げ、自身が過去にDVを受けて離婚したことや、息子が10代だったとき児童養護施設に預けていたことを口にしました。
会場には児童養護施設出身の若者や、いわゆる支援職の参加者が多くいました。そこで、子どもを預けた「親」の側である彼女が発言するのは、ちょっと勇気がいったことでしょう。
帰りに軽く立ち話をし、名刺を渡して別れたところ、ちょうど1年ほど経った今年の春、彼女からメールが。西新宿のファミレスで薫さん(仮名・60代)のお話をじっくりと聞かせてもらいました。
襟元を掴まれ、頭を床に何度も打ち付けられる
薫さんが元夫と知り合ったのは、今から約30年前、友達の紹介でした。いま思えば「家から出るための結婚」だった気もするといいます。薫さんは小さいときから、母親から激しい精神的虐待を受けていて、とにかく早く実家を出たくて仕方がなかったそう。
夫から最初に暴力を受けたのは、結婚して半年経った頃でした。夫の友人の話を聞いたときに違和感を抱き、「ちょっとそれ、おかしいんじゃない?」と口にしたところ、夫は「友人を悪く言われた」と逆上し、いきなり薫さんを殴ってきたのです。鼻血が流れ、ショックを受けた彼女は、布団を被って震えていたといいます。
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