話を聞いてすぐに駆けつけたのは、夫の母親でした。姑も夫から激しい暴力を受けていたため、息子が父親と同じようになることを恐れたようです。姑は薫さんに土下座して、「離婚してください」と頼んできました。
でも、薫さんにとって離婚はあり得ない話でした。暴力は今回だけだと思っていたし、離婚などしたら実家へ戻らねばならなくなります。それは、彼女にとって何よりも避けたいことでした。
その後、薫さんは妊娠。しばらくはよかったのですが、子どもが生まれて3カ月ほど経つと、再び暴力が始まりました。薫さんは毎日、料理や洗濯など家事をしていたのに、夫は「お前は今日も何もしていない」などと言って、彼女に手を上げるように。薫さんが赤ちゃんのお世話で忙しく、自分が構ってもらえないことが面白くなかったようです。
暴力はいつ始まるかわかりませんでした。夫はとても外面がよく、優しそうに見え、職場の上司から何か言われても反論などしないのですが、そのぶん、家に帰ると些細なきっかけで激昂し、薫さんに殴りかかってきました。
「襟元を掴まれて、頭を床に何度も打ち付けられて、ボコボコに蹴られて、玄関まで引きずり出される、というのがお決まり。『助けて!』って大声で叫んだけれど、近所の人は遠くから眺めるだけで助けてくれず、通報もしてくれない。見て見ぬふりでした」
夫は家ではほとんど口をきかず、薫さんが話しかけると「うるせえ!」と怒鳴り返しました。昔の同級生の女性と浮気をしており、家に帰らないこともしょっちゅう。「支配者と奴隷」のような関係のなか、薫さんは「家事を完璧にやらないと、自分には生きている価値がない」と思うようになっていたといいます。
時が経つにつれ、夫のDVは激しさを増していきます。ときには息子に矛先が向かうこともありました。プロレスごっこの延長で、息子を本気で痛めつけたり、お風呂に入ったときに、ふざけたふりをして息子の頭を湯船につっこんだり。虐待ですが、その頃もっと酷い暴力を受けていた薫さんには、止めきることができませんでした。
裁判に勝ち、親権者に
離婚を真剣に考え出したのは、息子が7歳のときでした。ずっと相談にのってくれていた友人から、「このままだと息子が高校生くらいになったとき、父親と殴り合いの喧嘩をして、殺し合いになってもおかしくないよ」と言われ、ハッとしたのです。
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