スターバックス風のチェーン・カフェが主流になった今の日本では、1杯1000円以上もするそうしたコーヒーは下火になっているのだが、フリーマンは今でも渋谷にはお気に入りの古い喫茶店があって、東京に来るたびに訪ねている。日本人がアメリカのチェーン・カフェに出入りしている間に、アメリカでは日本が失ってしまったコーヒー文化を、新しい方法でよみがえらせようとしているとは、面白いことである。
大手チェーンにはない、個人のにおい
フリーマンは、大学卒業後はクラリネット奏者として活動していた。だが、ミュージシャンの生活に疲れ果てて、趣味のコーヒーを本職にしたという経緯がある。
コーヒーへ興味を抱いたのは、小さい頃、コーヒー粉の入った缶を開けたときにかいだ匂いがきっかけだった。回り道をしたが、コーヒーを職業に見定めてからは、数々の味と香りの実験を繰り返し、店作りやスタッフの訓練に全力を注いでいる。
自分の気の向くままにブルー・ボトル・コーヒーを育ててきたフリーマンは、コーヒーだけでなく、ユニークなモノもカフェで売っている。
たとえば、オランダのモダニズム建築家モンドリアンのデザインを模したケーキや、塗り絵ができる小冊子、高級コットン製のパジャマなど。どれも完璧主義のフリーマンのこだわりの品だ。大手チェーンには見られない個人の匂いが、ここからする。
ブルー・ボトル・コーヒーは昨年、シリコンバレーの起業家から成る投資ファンドから2000万ドルの増資を受けた。個人の匂いのするコーヒー店を、さらに広く展開する予定だ。
産地、豆、焙煎にこだわり、そして豆を挽いて、おいしい1杯のコーヒーを入れること。人々がブルー・ボトル・コーヒーに来るのは、ただコーヒーの味のためだけでなく、小さなものでも細心の注意を払って、丁寧に作り上げることの大切さを思い出すためなのである。
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