しばらくの間、アメリカン・ファッションと言えば、コンサバで少々退屈なファッションを指していた。キャリアウエアとして通じるソツのない服、あるいはボディラインをくっきりと見せるようなフェミニンな服。
ところがここ数年、そのアメリカン・ファッションが面白くなっている。若い世代のファッション・デザイナーらが、パリやミラノ、ロンドンのクリエーティビティにも引けを取らない新風を吹かせているからだ。そして、その中核にいるのがアレキサンダー・ワングである。
ワングのファションは、一言では言い表しにくい。ガーリーでありながらフェミニンではなく、カジュアルでありながら、だらしなくない。「クールな女性が好きな服」とか「モデルの普段着」とよく表現されるように、ワングのデザインはスポーティで都会的で、それでいてリラックスしていてシャープという、面白いコンビネーションで成り立っているのだ。
パリのファッションのような小難しさもないが、だからと言って技なしにできるファッションではない。本能的で高度なセンスの持ち主だけが作り上げられる服なのだ。
超高価なハイファッションへの挑戦
ワングは1984年、台湾系アメリカ人の両親の元に生まれた。今年29歳。18歳のときに、生まれ育ったサンフランシスコからニューヨークに移り住み、最高峰のデザイン学校であるパーソンズ・スクール・オブ・デザインに入学。2005年、入学後わずか2年にして、自分のファッション・ハウスを作ることを決心。カシミアを使った巧みなユニセックスのニットウエアのラインを発表した。
ウィメンズ・コレクションを発表したのは2007年。デザイン学校は中途退学していたが、いきなり高い評価を生む。「一体、この才能がなぜ今まで隠されていたの?」とファッション関係者は驚いた。そしてそれ以来、毎年のように、CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー協議会)ファッション・アワードなど、次々と名誉ある賞を獲得していくのだ。
ワングの服は、高度なファッションでありながら、値段が比較的手頃であるのも魅力だ。手に届くクールな服を生む才能は、ワングのビジネスセンスの賜物と言える。彼はこんな風に語っている。
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