退屈なアメリカンファッションを変える才能 ユニクロからバレンシアガまでを魅了

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「若いデザイナーはファンタジーのような服ばかり作っていると思われがちだけれど、僕はもっと女性が無理なく手に入れられるファッションを生みたいと思っているんだ。ニューヨークは実験あふれる町だから、そんなこともできるはずなんだ」

これはある意味では、超高価なハイファッションに対する挑戦でもあり、才能あるファッション・デザイナーの手になる服が手頃な値段で売られるという、新しいカテゴリーを作り出すことにもなった。同時に、ファッション・デザイナーとは、お高くとまった天上の人ではなくて、等身大の今を生きる人物としても感じられるようになったのだ。

ユニクロから、バレンシアガまで

アレキサンダー・ワングの、その人となりも実に魅力的だ。細面で、まるで女性のように繊細な顔立ち。それでいてエネルギッシュで、ダンスが好き。ファッションショーのカーテンコールでも、時に長い髪を揺らし、踊りながらあいさつに出てくる。奔放で無邪気な彼のエネルギーは、その場にいる人々に伝染する。新しいアメリカン・ファッションをリードする人間として、彼以上にふさわしい人物はいないだろう。

2008年にユニクロとコラボしたワングのラインは、発売後30分で完売した。そのとき、ワンピースは3000円以下の値段だったが、2012年には、それとは対極のパリのファッション・ハウスであるバレンシアガのクリエイティブ・ディレクターに任命された。抑制されたシックなデザインで知られる歴史あるバレンシアガを、今秋開かれる2014年春夏のデビュー・コレクションで彼がどう生まれ変わらせるのか、大いに期待が高まっているところだ。

ワングは、自身のファッション哲学をこう説明している。

「まったくこれまでとは違ったことをしたいし、それにはリミットはない。けれども違ったことというのは、今までにない新奇なこととは違う。どこかに馴染みの感じられるようなもの。それはとても大切なことなんだ」。

そして、若いデザイナーにはこんなアドバイスも与えている。

「子供だましのような安物を超えて、ずっと先へ行くこと。アクセサリーは、ぴったりと適度であること。そして、自分自身のビートに乗ってデザインすること」

人生で感じる驚きへの反応をかたちにしているというワング。その驚きを共有できるわれわれは、まさに幸運というべきだろう。
 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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