ただ一流の医師は、医療雑誌でよく“医師のインタビュー”という形でその半生を語っておられるので、多少大げさなものがあるにせよ、医学生でもそのキャリアに触れることができます。しかしながら医学生や若い先生が知らないのは、大多数を占めるいわゆる普通のお医者さんのキャリア。特に医局に在籍している医師は“フツーの医師”がどのようにキャリアを積み、これからのキャリアをどうしようとしているかを、全然、知らない。いわゆる“等身大のキャリアモデルの不在”があります。
医局の人員構成は少々いびつな感じになっており、教授や医局長などの役職者が数名いる以外は、ほとんど下っ端の医局員。年齢も40歳以下で若手医師と比べてちょっと上の先輩しかいません。また大学を離れ関連の病院に出向などをしていると、同じ科目の先生は2~3人、下手したら自分1人だけでその診療科を診なければいけないなんてことにもなります。
大いなる野望などがなく、フツーに患者さんと向き合える医師になろうと思っても、そのモデルとなるような人が周りにおらず、したがってキャリアパスについて考える十分な機会がないというのが現状なのです。
自分の適性は早めにわかったほうがよい。
先ほどの石川医師の話に戻ります。
医師からは半年後に以下のような報告がありました。
「脳神経外科でしっかりとした研修を積むのは困難になり、転科を含め、働き方についてじっくりと考えます」
現在、彼がどのような働き方を選択されたかはわかりませんが、おそらく半年から1年くらいは、ブランクができたのではないかと思います。
また、転科ということになれば、別の研修プログラムを探し、0からのスタートとなるため、別の覚悟も必要となってきます。
医師は今や自分自身で、やりたいこと、目指したいことを基に将来を決めていかなければなりませんが、もし自分が思う価値感や方向性が違っていれば、このように少し残念なことが起こりうるのです。
彼の場合、父が脳神経外科を経営しており、それが軌道に乗っています。1日の患者数はリハビリを含め130名は下らないもよう。これだけのクリニックを有し、患者もすでについているということになれば、普通では、息子が継がないともったいないということになりそうです。
しかし、それにあまり引っ張られすぎると、自分の適性、能力を冷静に判断できなくなるのです。
自分の適性、能力というのは、必ずしもすぐにわかるものではありません。いろいろ周り道をしてたどり着くものもあるかもしれない。ただ医師の場合5~10年かけて●●科の医師として一人前になり、その一人ひとりが国民の大事な財産となっているのも確かです。
自分に合った診療科で存分に力を発揮することで、われわれ国民も医師自身もハッピーになる、そのような選択をしてほしいと願う次第です。
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