アメリカは原爆投下をどう教えているのか? アメリカの歴史教科書を読んで考えたこと

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大統領の決断は正しかったのか?

娘が中学生のとき、「Social Studies」(社会科)の授業で使っていた教科書は「The American Nation」(Prentice Hall / Pearson)である。アメリカの教科書はみな分厚く、日本の教科書に比べたら3〜4倍のボリュームがある。この教科書も1000ページぐらいあった。しかも、教科書は生徒に配布されるのではなく貸し出されるので、使い終わったら返さなくてはならない。

そこで、私は、現代史の部分をコピーして読んだ。私が驚いたのは、たとえば、次のような原爆投下の記述である。

まず、原爆投下までの経緯が書かれている。これは要約すると、ナチスドイツが降伏した後、アメリカ軍のリーダーたちは秋には日本に侵攻するという計画を立てていた。そのときは、軍には15万人から25万人の犠牲が出るだろうという。そして次に、以下のようなポツダム宣言の記述が始まる。

 《ポツダムのトルーマン大統領のもとに、本国から驚くべきニュースが飛び込みました。科学者たちが秘密の新兵器、原子爆弾の実験に成功したのです。この新兵器の威力はすさまじく、たった1個の爆弾で1つの都市を破壊できるものでした。使用するにはあまりに危険と考える科学者もいました。連合国の指導者たちは、ポツダムから日本に対し、降伏しなければ「ただちに徹底的な破壊」が行われるだろうというメッセージを送りました。しかし、日本の指導者たちはポツダム宣言を無視したのです》(一部要訳、以下同)

 

こうして、原爆投下になる。

 《1945年8月6日、アメリカの爆撃機エノラ・ゲイが、日本の広島に原子爆弾を投下しました。爆発によって少なくとも7万人が死亡し、同じ数の人間が負傷しました。市の大部分は破壊されました。1945年8月9日、アメリカは第2の原子爆弾を、長崎に投下しました。住民約4万人が一瞬にして死亡しました。その後、長崎でも広島でも、さらに多くの人々が、爆弾から放出された死に至る粒子、放射能によって亡くなったのです》

 

広島の廃墟と化した写真も掲載され、ここまでは事実をそのまま記述している。しかし、その後のレビュー欄に、「トルーマン大統領は、どういう理由で原子爆弾を使うことを決めたと思いますか?」という質問があって、それに私は驚いた。

それまで私が知っていたのは、アメリカでは「原爆投下は犠牲者を少なくするため」とされていて、その正当性は問題になっていないということだった。しかし、この教科書では、この点をわざわざ生徒に問うている。しかも、さらに続けて、次のような質問をしている。

 《戦争後、トルーマン大統領は、原子爆弾使用に同意したことについて、「それは戦争の苦しみを早く終わらせ、何万人ものアメリカの青年たちの命を救うためだった」と語りました。この大統領の決定は正しかったと思いますか? あなたの意見の根拠を述べなさい》 
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