以上のように、仮に「解雇を金銭で解決できる」という制度があった場合、確実に救われる人たちがいることがわかるでしょう。以前の記事でも述べましたが、年間の裁判所における労働紛争は3000件弱である一方、厚生労働省の統計によれば、1年間の離職者、つまり会社を辞めた方はおおむね713万人です。仮にこの中の5%が違法解雇か、それに近いものであるとすれば、35万人もの泣き寝入り状態の人がいることになるのです。「救われる人たち」とは、具体的には以下のような属性の人たちです。
具体的には、このように救われる!
①すでに転職を決めている人にとっては、単純にプラスでしかない
上記Aさんのケースでは、もともと会社と闘うつもりもなく、次の転職先も決まっています。これに加えて金銭がもらえるということであれば、困ると考える人は誰もいないでしょう。
②弁護士をつけて裁判所で闘うハードルが高いと感じている人には、むしろ保護になる
弁護士を探して、費用を払って、打ち合わせを何度もして、裁判所に何度も行って、主張する書面の打ち合わせをして、証人尋問のリハーサルをして……裁判は手間が盛りだくさんです。もちろん、トコトン闘うことをいっさい否定するつもりはありません。しかし、「そこまでしなくても……」と思う人が一定数いることは間違いありません。そんな場合に、「裁判をしてもしなくても」金銭補償を得られるようになれば、もう闘う「フリ」や裁判に、時間や手間をかけなくてもよくなるのです。
③弁護士をつけて裁判をしたとしても、労働審判や和解で解決するのであれば同じ結論であり、むしろ簡易迅速化する
実務的に多く見られるのは、労働審判や訴訟の中で、「和解」で終わらせることです。和解による解決は、「通常の退職を認める代わりに金銭を支払う」というものです。特に労働審判だと、8割は和解で解決しています。その現状からすれば、むしろ同じ水準での金銭解決が、裁判を通さずにできるようになれば、単純に手間が減るだけの話になります。
④「あっせん」など、裁判外の手続により低額で解決している人にとっては、もっともらえる
この連載で何度も紹介していますが、濱口桂一郎執筆『日本の雇用終了』には、労働局の「あっせん」手続において、意味不明な解雇理由にもかかわらず、10万円程度の極めて低額な和解がなされているリアルな現実が記されています。このように低額で和解をしてしまっている人たちにとっては、金銭解決制度によりもらえる金額が増えることで、間違いなく保護になるという皮肉な現実があるのです。
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