脳出血による後遺症を負ったカズヤさん(44歳、仮名)が20年以上勤めた会社を追われた日、上司や同僚たちは不気味なほど穏やかだった。
6月中旬のある日、雇い止めに遭ったカズヤさんはその翌日もいつもどおりに出勤した。会社側の処分に納得ができなかったからだ。白を基調としたオフィス。彼が不自由な左脚を引きずりながら自席へと向かう。十数人の同僚たちは皆、口元に笑みを浮かべてそれぞれのパソコンや書類に向かったまま、誰ひとり彼を見ようとはしない。
私物が段ボールの中にまとめられていた
ようやくひとりの女性が笑顔で近づいてきたと思ったら、数冊の書籍をカズヤさんのものかどうか確認すると、窓際に置かれた段ボール箱の中へと入れていく。箱の中にはあらかじめ彼の私物がまとめられていた。続いて、男性上司がなだめるように声をかけた。「契約は昨日までだから。出勤はちょっと……、ね?」。
穏やかなのに、かたくなな空気――。おもむろに若い男性社員が立ち上がると、私物の携帯電話でカズヤさんと同行した私たちの撮影を始めた。やはり、顔にはあいまいな笑みを浮かべている。そして、すれ違いざま小さな声でこう言った。「仕事にならないんっすよね」。
会社を出ると、どんよりとした梅雨空が広がっていた。途方に暮れたカズヤさんが後遺症のせいで不自由になった言葉を絞り出す。「障害者だって、働くことで生きがいを持ちたい」。
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