⑤安易なクビはむしろ減る
金銭解決の実効性を高めて確実に履行されるようになれば、解雇に伴う会社の出費は増えることになり、むしろ安易なクビは減ると考えられます。ここでのポイントは、「実効性を高める」ということです。金銭解決制度を入れても金銭支払いがなされなければ意味がありません。そのため、労働局や労働基準監督署が権限を持って、勤続年数に応じた金銭の支払いを命ずることができるようにすることが重要です。このようにすれば、簡易・無料・迅速かつ強制力があることになるので、実効性は高まるでしょう。ポイントは、「解雇予告手当の支払い」のような労働基準法上の義務にしてしまうことです(この点は個人的な考えがいろいろありますが、立法技術的な話になるので割愛します)。
⑥ブラック企業対策にもなる
現実問題として、違法なクビを連発しているブラック企業にとっては、金銭解決制度を導入してほしくないでしょう。これまで泣き寝入りしていた労働者が金銭補償を求めるケースが多くなります。また、違反があれば労働基準法の規制のように罰則があるとすると、違法なクビを連発している企業は生き残ることができなくなるのです。そして、副次的効果としては、転職を行う人が多くなって離職のハードルが下がることにより、ブラック企業を辞めることに対して抵抗感がなくなるという点も挙げられます。正直に言って、ブラック企業対策の最も有効な手段は「嫌だから辞める」を労働者全員が実行することだと考えています。
「金銭解決」を嫌がるのは、ブラック企業だ
このように、解雇の金銭解決により救われる人たちがいるのは明らかです。むしろ、これに反対しているのは、コンプライアンスを重視して無理な解雇をしない大手企業で「働かないオジさん」と化している人や、違法なクビを連発するブラック企業でしょう。このような人たちは「今の労働法に守られている」既得権者ですから、「今の労働法」の制度が変わるのをよしとしないのです。
もちろん、今の解雇規制でも、あるいは金銭解決を導入してもどちらも好ましくないと思う人もいるでしょう。ですが、私が問いたいのは、「本当に保護される労働者の数が多くなるのはどちらか」ということなのです。
以上3回に分けて、現在の解雇規制の機能不全と金銭解決の妥当性を論じてきました。この議論はいったん区切りとしますが、今後も、本連載では高度経済成長期にできた労働法や労働慣行が、時代の変化によってミスマッチな状況になっていることを指摘していきたいと思います。
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