本格的な評伝や自身による回想録を別にすれば、経営者の好き嫌いは外部からはなかなかわからない。その人の「好き嫌い」に焦点を絞って経営者の方々と話をしてみようというのがこの対談の趣旨である。この企画の背後にある期待は3つある。
第1に、「好きこそ物の上手なれ」。優れた経営者やリーダーは、何ゆえ成果を出している の か。いろいろな理由があるだろうが、その中核には「自分が 好きなことをやっている」もしくは「自分が好きなやり方でやっている」ということがあるはずだ。これが、多くの経営者を観察してきた僕の私見である。
第2に、戦略における直観の重要性である。優れた経営者を見ていると、重要な戦略的意思決定ほど理屈では割り切れない直観に根差していることが実に多い。直観は「センス」といってもよい。ある人にはあるが、ない人にはまるでない。
第3に、これは僕の個人的な考えなのだが、好き嫌いについて人の話を聞くのは単純に面白いということがある。人と話して面白いということは、多くの場合、その人の好き嫌いとかかわっているものだ。
こうした好き嫌いの対話を通じて、優れた経営者が戦略や経営を考えるときに避けて通れな い直観とその源泉に迫ってみたい。対談の第3回は、アメリカのシリコンバレーと日本の両方でITビジネスの経験を持つ石黒不二代さんにお話を伺った。石黒 さんはメディアにもたびたび登場する論客かつ美貌の経営者だが、好き嫌いの話を伺ってみると、その実像はパブリック・イメージとかなり違うということがわ かって面白い。
※ 対談(上)はこちら:趣味は恋愛。付き合うなら「ギーク」です
ビジネス書と伝記が嫌い
楠木:プライベートに話が戻りますが、本を読むのがお好きだと伺ったのですが。
石黒:これも好き嫌いで、小説しか読まなくて。でも、先生の本『ストーリーとしての競争戦略』は好きですよ(笑)。
楠木:すみません、お気遣いいただいて。ウソでもうれしいです。
石黒:だって、あれはストーリーですもの。私、ビジネス書が本当に嫌いなのです。いっぱい献本いただくのですが、読んだふりみたいな感じ(笑)。あと、伝記も好きじゃないです。
楠木:どういう小説がお好きですか? 最近のものでも長年のお気に入りでも。
石黒:今まで読んだ小説の中でいちばん面白かったのは、トルストイの『アンナ・カレーニナ』です。
楠木:なるほど。まさにド小説という作品ですね。
石黒:最近では、あんまり考えなくていい感じがあって、ミステリーを読んでいます。
楠木:そうすると、おうちに戻って、手作りのお食事を召し上がって、本を読んでという。
石黒:いや、食後に仕事をしていることも多いですし、ゲームをしたりもします。
楠木:事務作業やファイリングが苦手と伺っていますから、おうちの片づけはあまりお好きじゃないですか?
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