セレクトショップは好き嫌いで経営できる? ユナイテッドアローズ 重松会長の好き嫌い(上)

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 本格的な評伝や自身による回想録を別にすれば、経営者の好き嫌いは外部からはなかなかわからない。その人の「好き嫌い」に焦点を絞って経営者の方々と話をしてみようというのがこの対談の趣旨である。この企画の背後にある期待は3つある。
 第1に、「好きこそ物の上手なれ」。優れた経営者やリーダーは、何ゆえ成果を出している  の か。いろいろな理由があるだろうが、その中核には「自分が 好きなことをやっている」もしくは「自分が好きなやり方でやっている」ということがあるはずだ。これが、多くの経営者を観察してきた僕の私見である。
 第2に、戦略における直観の重要性である。優れた経営者を見ていると、重要な戦略的意思決定ほど理屈では割り切れない直観に根差していることが実に多い。直観は「センス」といってもよい。ある人にはあるが、ない人にはまるでない。 
 第3に、これは僕の個人的な考えなのだが、好き嫌いについて人の話を聞くのは単純に面白いということがある。人と話して面白いということは、多くの場合、その人の好き嫌いとかかわっているものだ。 
 こうした好き嫌いの対話を通じて、優れた経営者が戦略や経営を考えるときに避けて通れない直観とその源泉に迫ってみたい。対談の第4回は、セレクトショップのユナイテッドアローズを運営する重松理社長にお話を伺った。 

アメリカの直輸入物に目覚める

楠木:この対談は、私がふだんから関心を持っている経営者の方々の「好き嫌い」を聞いていく、というものです。「良しあし」ではなく、あくまでも「何が好きで、何が嫌いなのか」をお伺いしたいと考えています。

そもそも重松さんがなさってきたファッション、特にセレクトショップというビジネスは、重松さんの好き嫌いと深くかかわっていると思うのですが、その端緒からお伺いしていきたいと思います。重松さんは、小学生の頃からアメリカのファッションや文化に興味を持たれていたそうですが、そのきっかけは何ですか?

重松:私は逗子で生まれたのですが、アメリカ軍の居留区があったんですね。そのうちの一軒で、私の姉が英語を教えてもらう代わりにベビーシッターをすることになり、アメリカの洋服が手に入るようになったのです。

楠木:何年頃のお話でしょうか。

重松:私は1949年生まれですので、50年代の後半ですね。

楠木:当時、日本ではどんなファッションが主流だったのですか。

重松:おしゃれな人は、アメリカのファッションにあこがれれていたと思います。たとえば、当時はVANが全盛の頃でしたし。ただ、日本人の体形に合わせた服だったので、アメリカ人が着ているものとはずいぶんと違っていました。

楠木:具体的には、どんな点が違っていたのでしょう。

重松:日本人の体形に合わせた服でした。アームホールが狭く、今で言うスリムフィットに近いのですが、着心地がちょっと窮屈なんです。一見、同じようなデザインでも、姉がアメリカから送ってくれる服とは、着心地がまるで違う。鏡に映したときのシルエットも全然違いました。シルエットだけはアメリカ人みたいな雰囲気。顔は完全な日本人ですけど(笑)。

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