本格的な評伝や自身による回想録を別にすれば、経営者の好き嫌いは外部からはなかなかわからない。その人の「好き嫌い」に焦点を絞って経営者の方々と話をしてみようというのがこの対談の趣旨である。この企画の背後にある期待は3つある。
第1に、「好きこそ物の上手なれ」。優れた経営者やリーダーは、何ゆえ成果を出しているのか。いろいろな理由があるだろうが、その中核には「自分が 好きなことをやっている」もしくは「自分が好きなやり方でやっている」ということがあるはずだ。これが、多くの経営者を観察してきた僕の私見である。
第2に、戦略における直観の重要性である。優れた経営者を見ていると、重要な戦略的意思決定ほど理屈では割り切れない直観に根差していることが実に多い。直観は「センス」といってもよい。ある人にはあるが、ない人にはまるでない。
第3に、これは僕の個人的な考えなのだが、好き嫌いについて人の話を聞くのは単純に面白いということがある。人と話して面白いということは、多くの場合、その人の好き嫌いとかかわっているものだ。
こうした好き嫌いの対話を通じて、優れた経営者が戦略や経営を考えるときに避けて通れない直観とその源泉に迫ってみたい。対談の第1回は、僕にとっ て長年の友人である鎌田和彦さんにお話を伺った。鎌田さんは人材企業インテリジェンスを起業した後、経営者として長年同社に携わり、現在は中古不動産事業 やベーカリー、レストラン経営を展開。さらには先日、初のエンターテインメント小説を上梓された異彩の人物である。
「メインストリーム」が嫌い
楠木:鎌田さんのことは昔から存じ上げていますが、1988年にリクルートコスモスに入社し、その後1年半でインテリジェンスを立ち上げていらっしゃいます。大学を卒業するときにはすでに起業するつもりだったのですか。
鎌田:僕は、大学にはほとんど行かずにベンチャー企業に出入りしていた人間なので、卒業前から経営に目覚めるというか、そういうことをやるのがいいという気持ちはありました。そもそも大学に入る頃、「普通に歩んでいっても、俺は評価されない」と気づいていたからでしょうね。
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