「ボロ儲け」より「価値のデザイン」が好き 「新しい市場のつくりかた」著者、三宅秀道氏の好き嫌い(下)

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 本格的な評伝や自身による回想録を別にすれば、経営者の好き嫌いは外部からはなかなかわからない。その人の「好き嫌い」に焦点を絞って経営者の方々と話をしてみようというのがこの対談の趣旨である。この企画の背後にある期待は3つある。
 第1に、「好きこそ物の上手なれ」。優れた経営者やリーダーは、何ゆえ成果を出しているの か。いろいろな理由があるだろうが、その中核には「自分が 好きなことをやっている」もしくは「自分が好きなやり方でやっている」ということがあるはずだ。これが、多くの経営者を観察してきた僕の私見である。
 第2に、戦略における直観の重要性である。優れた経営者を見ていると、重要な戦略的意思決定ほど理屈では割り切れない直観に根差していることが実に多い。直観は「センス」といってもよい。ある人にはあるが、ない人にはまるでない。
 第3に、これは僕の個人的な考えなのだが、好き嫌いについて人の話を聞くのは単純に面白いということがある。人と話して面白いということは、多くの場合、その人の好き嫌いとかかわっているものだ。
 「好き嫌い」について経営者の方々と話をしてみようという、この対談であるが、今回は経営者ではなく、僕と同業の三宅秀道さんをお招きした。三宅さんの『新しい市場のつくりかた』を最近読んで感銘を受けた。三宅さんの好き嫌いや、研究観、経営論を伺った。

※ 前編はこちら:社会不適応者の僕らが、学者になるまで

フィールドワークが好きからコンセプトを紡ぎ出す

楠木:その後、早稲田大学に戻って博士課程へ進まれたのですよね?

三宅:神戸で2浪している間、「食いつなぐための仕事をしたら」と、高校の恩師が経営していたシンクタンクでリサーチをやらせてもらいました。あるとき学生街としての早稲田の調査を任されて、かつて授業を受けていた鵜飼信一先生を訪ねたのです。「三宅、しばらく見ないうちにやつれたな」と驚かれましてね。事情を話したら鵜飼ゼミに入れていただくことになった。鵜飼先生は中小企業論の研究者ですから、ひたすら町工場を回りました。さらに鵜飼先生は、三菱総研のときの同僚だからと藤本先生を紹介してくださって、週1回は本郷の藤本ゼミに隅っこで聴かせていただくようにもなりました。

楠木:じゃあ、藤本スタイルの調査もお好きですか? すごい勢いでフィールドワークをして、勢いだけじゃなく調査ノートもきっちりとって、ありとあらゆることを知っているというスタイル。

三宅:好き嫌いを超えてすごく尊敬しますけど、超人すぎるじゃないですか(笑)。僕はそんなに広い範囲ではできません。2人の先生は似ているところはすごく似ていて、違うところはずいぶん違う。

藤本先生は世界を追いかけますが、鵜飼先生は東京近郊と関東近県各地が中心です。藤本先生は物理学でいうとニュートンの一般理論みたいなことを志していて、全部を説明できる究極の理論を打ち立てる覚悟がおありでしょう。一方の鵜飼先生は、町工場を歩いては人類学者的に深い文脈まで見て、20年間、年に1回はその工場のおじいちゃんと話し続け、お孫さんの教育相談にまで乗るというやり方です。

藤本先生と鵜飼先生を見ていたので、よく言えばハイブリッドを目指したいですし、悪く言うとつまみ食いでやっていくのかなと思っています。

楠木:どちらも労をいとわないやり方ですね。

三宅:ええ、そうです。僕は本来ものぐさですけれど、労をいとわない2人の先生にご恩を受けたので、つらいなと思いながらもそこはサボっちゃダメだなと(笑)。

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