これからのビジネスでの戦い方は、技術開発ではなく、「問題の発明」だという。新しい文化で育つ需要の波をどう作り、そのマーケットで枢要な地位をどう占めるか。
──「問題の発明」がキーワードですか。
作ってみたら新しい習慣として世の中に普及した。そういう製品を探してみればいくつもある。どんな製品も、最初は高度な技術で開発されたというより、あった技術をなかった用途に転用して、社会がその用途を後から認知するようになったものが少なくない。製品ができる最初の過程はそういうものだ。
中小企業を研究してきてわかったことは、製品としても生産技術としても抜きんでたところはないが、その製品によって、以前は需要さえなかったところで需要が作られ、そのマーケットでトップを占めるようになるというような、技術の優位性では説明がつかない成功例が結構あることだ。これは、従来の経営学が教える企業の勝ち方のロジックにそぐわない事例だが、いまはそれも「王道の勝ちパターン」の一つとして分析できる。
──文化人類学が参考になったようです。
文化人類学の人たちと話をしていると、トウモロコシはネイティブアメリカンの聖なる食べ物だったとか、インドネシアで今ポカリスエットが受けているといった話がぽんぽん出る。新しい文物が、違う社会から輸入されて普及していく現象が、当たり前のようにある。その形態は、新しい文化が波となって広まり、その波に乗って、特定の企業がマーケットを占有していくものだ。
このような生活文化、消費文化の開発はその地域で大いなるビジネスチャンスを生む。これは、製品技術より文化で説明して初めて説得力があるし、そういった事例も豊富にある。今の日本でそれができないとすれば、これまでの成功体験が障害になっているからだろう。