書名からの想像とは裏腹に孫文も辛亥革命も登場しない。机も主役ではない。孫文が使っていた机にまつわる兄弟の物語で「記者」大野日出吉、「詩人」大野四郎、「画家」大野五郎の三つの職業名からなる章で構成されている。時事新報と中外商業の記者だった日出吉(のち和田姓)は二・二六事件で現場一番乗りを果たし、武藤山治とともに「番町会」を糾弾、松岡洋右に頼まれ満州で新聞社を経営して羽振りを利かせた。
四郎は逸見猶吉の名でのんだくれながら多く詩を発表し、満州で有名人となった。五郎はあまり売れない孤高の画家で、絵を描きながら著者と各地を旅した。足尾銅山の鉱害、二・二六事件、「大東亜」戦争などに3人がどうかかわり、どう精神的影響を受けたかが通奏低音のごとく流れ、時に主題となる。有名無名の軍人、小説家、詩人、画家が3兄弟と交錯する中、大仏次郎賞作家による味わい深い昭和史の一断面が粘っこく展開される。(純)
白水社 2310円
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