『新しい市場のつくりかた』を書いた三宅秀道氏(東海大学政治経済学部専任講師)に聞く Books Review

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──文化を開発するわけですね。

主流のマーケティング理論では潜在ニーズを発見しろという。それは今あるコンセプトを、いろいろな生活の場に投げ込んでみれば、細部で改善できるところがある、という言い方と同じだ。しかし、これでは後手といっていい。社会につねにある生活文化の変化に作り手が追いついていない。生活者の変化を先取りして、たとえばトイレでは尻は洗うものという習慣が生まれたように、主導権をもって生活文化の「家元」になることが大事だ。

──「発見する」のではなくて「発明する」のですね。

同じ価値観、物差しを使って具体的にいろいろな生産現場を見ると、ここはムダを省けるとか、ここはもっと安くできるなど、「改善点が発見」できる。それが、トヨタ自動車の工場では年間100万件もの「改善点の発見」になる。

文化の開発では、暮らしAよりBがよいライフスタイル、暮らしやすいと評価する価値判断の基準を、各自が持つ。その価値判断に照らすと、最初は主観。それを共有したからといって客観になるわけではない。それぞれの主観が広く共有されただけだ。すでにある価値観に照らして、ムダだ、不便だ、迷惑だと共通したものとして発見するのではない。この自分の中で創案した価値観にいつも照らす。問いの設定と解決手段の開発の両方をやってしまうのだから、これは発明といえる。

──大企業では膨大な数の人々が開発研究に当たっています。

日本の製品開発は、より低コストのものがいい、より省エネがいい、より省スペースがいいと、コストパフォーマンスの比率をよくする方向ばかりに意識が偏る。それを使ってこんな楽しみもあるといった別の暮らし方を提案するようなことは弱い。とりあえず、上司から言われたから特許件数だけはノルマをこなすため取るとしても、それを組み合わせて暮らしの中で喜ばれるサービスに結び付ける提案はお留守になっている。今まで文化を開発することをなめてきた。暮らしの幸せは米国製を借りてきて、それを軽薄短小、省エネで実現しようとした。

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