本格的な評伝や自身による回想録を別にすれば、経営者の好き嫌いは、外部からはなかなかわからない。その人の「好き嫌い」に焦点を絞って経営者の方々と話をしてみようというのが、この対談の趣旨である。この企画の背後にある期待は3つある。
第1に、「好きこそ物の上手なれ」。優れた経営者やリーダーは、何ゆえ成果を出しているのか。いろいろな理由があるだろうが、その中核には「自分が好きなことをやっている」もしくは「自分が好きなやり方でやっている」ということがあるはずだ。これが、多くの経営者を観察してきた僕の私見である。
第2に、戦略における直観の重要性である。優れた経営者を見ていると、重要な戦略的意思決定ほど、理屈では割り切れない直観に根差していることが実に多い。直観は「センス」と言ってもよい。ある人にはあるが、ない人にはまるでない。
第3に、これは僕の個人的な考えなのだが、好き嫌いについて人の話を聞くのは単純に面白いということがある。人と話して面白いということは、多くの場合、その人の好き嫌いとかかわっているものだ。 こうした好き嫌いの対話を通じて、戦略や経営を考えるときに避けて通れない直観とその源泉に迫ってみたい。対談の第9回は、オイシックス代表取締役社長の高島宏平さんをお招きしてお話を伺った。
対談の第1回はこちら
自分が夢中になれるかどうかを時間をかけて自分に問う
楠木:高島さんには、熱い部分と客観的で冷静な部分が共存していますよね。熱い部分でいうと、創業した頃に「見返してやるリスト」を作成したという話が僕はわりとスキ(笑)。これはぜひ、ご本人からご説明願いたいものです。
高島:僕がオイシックスを始めた頃は、ネットバブルが弾けた直後で、金融機関から資金調達がまったくできなかったのです。しかも、断られ方が屈辱的でした。新入社員が出て来て、僕らが決算書の見方を教えたりした後に、その新入社員に断られるとか。ひどいのは、僕らが資金調達を断られるシーンを、金融機関に内定した学生の研修に利用されたりとか。
楠木:それはひどいですね。
高島:当時、そういう仕打ちをした相手をメモしていました。僕は、けっこう根に持つタイプなので(笑)。
楠木:ちなみに、そのメモには、相手の個人名が書かれているのですか。
高島:いえ、法人名です。
楠木:ちなみにどんな法人名が(笑)?
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