楠木:なるほどね。僕は徹底して労をいとうタイプ(笑)。基本的にブッキッシュ(bookish)だから本を読んで考えたりするのが先。仮説が自分の中にできると、それについてだけ話を聞きたい。で、ようやくフィールドに出る。僕もあまり先入観を持たずに、労をいとわずフィールドにまず出ることも大切だなと、三宅さんの御本を読んでいて思いました。フィールドワークと概念とか論理を考えることを比べると、どっちが好き、どっちが先に来るというのはありますか?
三宅:先はフィールドですね。ただ、それをコンセプチャライズしていくのは好きです。
楠木:コンセプトができてくると、今度はコンセプト間のつながりが必要になる。それが論理だと思うのですが、そこもお好きですか?
三宅:パズル的で好きですね。藤本門下にはとても頭のいいおにいさんたちが何十人もいて、すごく付き合いがよかった。僕が「現場でこんな面白い話があって、こういう概念を考えたら説明しやすくなると思うのですが」という話をすると、時間をかけてじっくり聞いてくれる。あの人たちが論理を研いでくださったのですね。
しみじみした中小企業への聞き取り調査
楠木:調査の対象やフィールドをどこに置くのかは、どう決めていますか?
三宅:本当に運と縁です。たまたま中小企業が多いのは、貧乏しているときのバイトで水着メーカーのフットマークさんのような会社と、幸い運命的に出会ってしまって。本にも書きましたが、誰も水泳帽をかぶっていなかった時代に水泳帽を大ヒットさせた会社です。僕がその頃知っていたフレームでは、ヒットの理由の説明がつかない。でも説明しないといけない。仕事が向こうからプレッシャーをかけてくる感じで、「水泳帽の需要をつくったことがミソだ」というロジックをつくっていきました。
楠木:需要をつくるとは、まさに価値の創造です。価値はどう創造されるのかと言っても、誰も説明できなかったことですよね。一生かけて取り組めるすばらしいテーマだと思います。対象としては中小企業か地場産業と決めていらっしゃるのですか?
三宅:限定するつもりはないのです。アルバイトでたまたま出会ったようなケースも多いし、阪神・淡路大震災以来、僕はずっと運に動かされているというか受け身です。ただ、中小のオーナー経営者だからできる思いきった問題設定みたいなものはありますね。大企業の話はまどろっこしいので、センスのいいオーナーがいる中小企業のほうがやりやすい面はあります。好き嫌いで言いますと、僕がむさくるしい専業非常勤だった頃、親切に相手をしてくださったのは中小企業だし(笑)。
自治体のモノづくり調査事業といったアルバイトの場合、社長インタビューの相手は下町のおばさんだったりするのです。気がよくて話し上手で、「私も若い頃、いけない恋をしちゃって」みたいなことまで教えてくれる。「あんた、面白いことを言うね。飯でも食っていけや」という職人さんもいました。浅草の工芸職人さんの話は興が尽きないですよ。浅草の方たちは古い東京の都市社会に育っていますから、職人さんでも話がうまい。
ちゃんとした調査だけれど、下町の生き生きとした情景も浮かぶようにしたいと思っていました。商工会議所や台東区の商工課長から「三宅さんのレポートを読むと、しんみりしみじみするからイイね」って褒められたりして。逆に僕が嫌いなタイプは、視野が狭くて事前合理性にとらわれた人たちですね。これまで、あまりご縁がありませんが(笑)。
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