楠木:ご著書があると、いろんな企業のドアをノックして開けてもらうことは以前よりもやりやすくなったのではないですか? いわゆる大企業と中小企業の間にもとても広いレンジがあって、規模としては中堅に見えるけれども、文化開発や問題の発明をしているドワンゴのような会社がいっぱいありますでしょ。今後はそういう会社が日本の産業の中核になっていくと思うし、韓国などと比べても、その層の厚さが日本の面白いところじゃないかと。
三宅:いや、僕もそういうところもやれたらなと思っています。
「ボロ儲け」より「価値のデザイン」
楠木:もうひとつ伺いたかったのは、三宅さんのようなご関心だと、モノよりもサービスを研究しようとなりませんか? サービスのほうが文化の開発に結び付きやすいと思うのですけども。
三宅:それはありだと思います。でも、たまたまモノづくりの研究の仕込みを受けて、製造業の方との縁に恵まれましたから。自治体の中小企業研究だと地域の製造業支援のことばかりですし、商業というと商店街の福引の助成ぐらいになっちゃいますからね。
楠木:今後も市場というテーマで研究していくお考えなのでしょうね。本のタイトルにも「市場」とついていますし。
三宅:最初に考えたタイトルは、「文化英雄(カルチャーヒーロー)の経営学」。「それは売れません」と編集の方にきっぱり言われました(笑)。そこで書いてあることを飾らずにシンプルに言ったのが『新しい市場のつくりかた』です。
楠木:本文中のキーワード、「文化開発」とか「問題発明」をタイトルにとは考えませんでしたか?
三宅:訳がわからなさすぎると思いましたね。タイトルの話ではなくこれからの研究テーマとしても考えているのですが、「文化の開発」というのは「価値って何だろう?」という問いだと思うのです。研究は文化の開発という形を取るけれど、その真ん中にあるのは価値かもしれないと。だから価値の正当化につながる話を掘っていきたいですね。価値というものができていく初期段階では政治や宗教も絡むだろうから、全部ひっくるめて「価値をデザインする行為とは何か」を考えられたらと思っています。
楠木:要するに三宅さんのやっていること、やろうとしていることは本質的に価値論ですね。三宅さんの御本には、新しい価値が生まれる一例として高機能のコップや新しい水着が出てきます。新しい市場をつくっても、それはそれで競争になる。競争に勝ってボロ儲けという、商売へのご関心はないのですか?
三宅:儲かるのもいいと思うし、価値のデザインをうまくやった結果、儲かる可能性は高まると思います。お世話になった企業がより儲けてくださったらうれしいですね。でも僕の興味は、ボロ儲けよりも価値のデザインの行為そのものです。ずっと赤貧の院生をやっていたから、貧乏には慣れているし(笑)。長い間、隣に銭湯があって、その銭湯が固定客を確保しようとして建てた風呂なしアパートに住んでいたのですが、あれは「顧客の創造」でしたね。
楠木:それ、面白い! もう絶対、授業で使っているでしょ(笑)。
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