威張るのは嫌い
鎌田:仕事の役割かどうかはわかりませんが、僕が社会人になって最初に教わったことは、経営は人を使う仕事だということ。そして人を使う仕事においていちばんいけないのは、人の好き嫌いだということです。だから嫌いなメンバーでも「俺はこいつを嫌いじゃないはず。嫌いなわけがない」みたいな暗示をかける(笑)。人事評価のときは幹部にも「好き嫌いで言ってないか。ダメだ。あいつの能力を見ろ」と注意までしちゃって。
楠木:それは経営としては当然ですよね。
鎌田:ある意味そうです。だけど外部から来た人事本部長に言われたのです。「人の評価って好き嫌いやないですか」と、関西弁でね。「えっ、マジ?」と衝撃を受けちゃった(笑)。荷が下りた気がしました。すごくまじめに好き嫌いはダメだと思っていたけれど、それがアリなら全然違う経営だったと考えもしました。どっちが正しいか僕もわからないけど、正直、嫌いなやつと仕事をするのは苦痛ですよね。
楠木:僕は経営者の好き嫌いに興味があってこの対談を続けているわけですが、鎌田さんは1989年に宇野康秀さん(現・USENグループ会長)や島田亨さん(現・楽天常務取締役)と一緒に起業されて、若手ベンチャー起業家をいっぱい見たと思います。当時、そういう人たちの好き嫌いと自分の好き嫌いをくらべたとき、違うと思うことはありましたか?
鎌田:どうでしょう。タイプは違うな、とは思っていました。
楠木:男性には理屈抜きの本能として、動員できるリソースのデカさを求めるところがあると思うのです。「一声で何億動く」とか「俺が右手を上げれば100人が右に行く」といったデカさをね。この欲求は男性ホルモンから出てくる本能といってもよい。男の世界。そういう人は雑談していても、いろいろな婉曲な表現は使いますが、要するに「俺ってデカいぜ!」という話が多い。
鎌田:僕はそういうのはない。たぶん威張るのが嫌いです。威張るタイプの人は、上位者として脅威的な何かを発動して部下を動かすのが好きだったりしますよね。そういうのはないし、むしろ客観的です。
楠木:経営者である鎌田さんはそうなのに、インテリジェンスという会社は男性ホルモン全開でガンガン行っている。これが端から見ている僕には、興味深いものでした。
鎌田:僕が手応えを感じる瞬間というのは、人が動くことではなかったのでしょうね。たとえば、僕は数学が全然ダメだけれど、苦労しながら方程式を解いていたら、あるところできっちり解けた、みたいな実感があるでしょう。会社も同じで、しばらくやっていたら、ガラッと転換して事業が伸ばせたとか、そういう手応えがあるわけですよ。この瞬間が非常に快感です。戦力が多いほうが回る車輪の大きさがデカいから、より面白いというような感覚はあるけれど、大きさより枠組みをつくる側でしょうね。
(構成:青木由美子、撮影:尾形文繁)
※ 続きは来週掲載いたします
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