企業経営は「スキルではどうにもならないことがある」だけに、「センスのある、向いている人がやるのがいい」――そう主張する楠木建・一橋大学大学院教授に、経営センスとは何かを聞いた。
──ずばり「経営センス」とは何ですか。
その人が持っている論理の体系だと思う。経営は基本的に矛盾の克服なので、経営においての問いの答えはいずれも「特殊解」。その文脈で初めて使えるものばかりになる。スキルなら、たとえばIT力や英語力、あるいは会計や法務の知識は、ある程度あればそれを使ってどこでも同じように仕事ができる。ところが、経営ではケース・バイ・ケースでまったく変わってくる。経営センスとは、商売を丸ごと動かし成果を出す繰り返しの中で、その人にでき上がってくる論理の引き出しなのだ。
──丸ごと動かす?
ビジネスはスキルをどんどん獲得していけばうまく進められるような、そんな甘いものではない。もちろん基礎的なスキルがないと会社は回っていかない。ところが、経営はスキルと違い、担当部署があるわけではない。商売丸ごと動かして、それで成果を出すのが経営者だ。肝心要の経営がないと、担当の仕事というのも本来ありえない。だから、誰かが経営をしないといけない。担当者レベルのスキルを足し算して、いわゆるゼネラリストがいい経営者かというと全然違う。担当者と経営者の間にはつねに大きなギャップがある。それだけ経営人材は希少であり、どの国でも不足している。
──センスは学べないのですか。
スキルとは違って定型的な方法論がない。こうやったらセンスがつくようになるという教科書もない。突き放した言い方をすれば、経営のセンスは育てられない、でも育つ。他動詞ではなくて自動詞として。育つためには、若いうちから経営の経験を積んだり、プロフィットセンターを任されたりといった、育つ土壌があるといい。直接には育てることはできないが、結果としてセンスが育つケースはある。
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