経営センスは育てられない、でも、育つ 『経営センスの論理』を書いた楠木建氏に聞く

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──子会社や部門を預けることで育てようとしています。

担当がなく、自分がすべてを動かせるという感覚。それが経営者の前提であり、そうなれば経営センスの出番になる。だから、規模ではない。従業員3人の会社の経営者と、部下が1万人いる工場長、生産部門長がいるとしよう。スケールとしては工場長のほうがはるかに大きいとはいえ、こちらは担当者のスキルで片付く。センスという意味では、3人の会社の経営のほうが身に付くはずで、全然違う仕事になる。

従来、経営人材の供給源はどこにあったか。たとえばメインバンク制度がまだ強く残っている頃の日本ではメガバンクの融資担当。40歳ぐらいで取引先の経営立て直しに派遣されたりする。個別企業ではリクルートからは経営者が輩出している。経営センスが育つ土壌にあふれているようだ。あの会社には担当という概念がない。入社即、商売してこい、商売を作ってこいと。これが経営人材の出る土壌を作る。

──経営者のハンズオフ、ハンズオンにも要注目ですか。

経営センスを見極める大きなポイントと思っている。担当がなく、365日仕事に邁進するのが経営者だと言ったら、そんなことは誰もできないということになる。それをこなす。すべてのことはできないから、どういう仕事についてはハンズオフ(=しないこと)にするか。どこまでをハンズオンにするか。まさにそこに経営者のセンスが出る。その仕分けには固有のロジックがあるはず。何をオンにしオフにするかでそのロジックが見て取れる。

──経営を好きになることが大事とあります。

「好きこそものの上手なれ」が経営の最強の理屈だと思っている。上手でなければ人に貢献できない。仕事は基本的に人のためにならないと成立しないからだ。上手になるには、努力しなければならない。なぜ努力できるのか。好きなことだと、はたから見ると努力していても、本人には努力している自覚はない。好きでやるからうまくなる、うまくなるから人の役に立つ。これが仕事の理想だと思う。

知的な作業でいえば、自分が面白いと思うから勉強できるわけで、本を読むにしても何かを考えるにしても、面白がる力があることが大切だ。センスはその人が経験の中で練り上げてきた論理の引き出しだから、大切なのはむしろ、自分の面白がることを見つける力といってもいい。

(撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2013年5月18日

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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