「産めるときに産みたい」はワガママなのか? 浦安市と連携し卵子凍結を行う菊地医師に聞く
でも、少なくとも浦安市の現状はそうではなかった。学会が認めているガンではないけれど、何らかの病気を持っている人が半数以上です。ある意味、グレーゾーンの人が来ているということを伝えたいですね。
もしかしたら、今後の学会で「病気の人は未受精卵子の凍結保存をしてもいいのではないか」という意見が出るかもしれません。ただ、その場合は、どこまでの病気なら良いのか、そのあたりの線引きは難しいと思います。どの病気なら認められるのか、夫の病気の場合はどうするのか。
例えば、40歳を過ぎて体外受精をやっている先輩たちに勧められたから、という人は本当にわがままだと言えるのか?一人ひとり、抱えている事情は違いますし、誰も線を引けないと思うんです。
これは個人的な意見ではありますが、体外受精の前半部分で止めておくことが卵子凍結であり、病気や年齢のために、将来的に体外受精を行うのであれば、採卵を数年ほど前倒しにしておくだけという考え方もあります。未受精卵子の凍結保存だけを特別に扱わなければよいと思うのです。
理想的には、体外受精を我が国でも保険適用として、採卵時期は問わず、一定の回数であれば、幅広く補助をする、ということがベストであるような気がします。もちろん、適用する対象については慎重に選択しなくてはいけませんが、皆保険で行うことが難しいのであれば、卵子凍結までカバーした民間の保険などができればと思います。卵子凍結、受精、胚移植、それぞれは一連の流れである以上、連動してカバーする保険がほしいと思うのです。
自身の健康についての知識がもっと広まれば
――出産年齢が遅れていることもあり、卵巣嚢腫や子宮内膜症の女性は増え続けていますよね。
晩婚晩産化して初産年齢が上がっているので、子宮内膜症は10人に1人、子宮筋腫は5人に1人という割合になっていると言われています。ピルを飲んでいると予防することも可能ですが、日本ではピルは怖いというイメージがあるせいか、飲んでいる人は多くありません。副作用のほか、沢山あるメリットについての知識を広めていないことにも問題があります。
日本では、妊孕能のみならず、健康についての教育が不十分だと感じています。自身の健康についての知識がもっと広まれば、命を大切に考えることにも結びつきます。特に「性」については、タブー視されがちであり、その結果が少子化にもつながっているように思います。
もちろん、子育てにかかる教育などの費用負担が大きいことも問題だと思いますが、子供を育てることについての教育も不足しているのではないでしょうか。昔であれば、近所に赤ちゃんや子どもがいて、子育てを間近に感じることができていたのでしょうが、現代では子どもを産み育てること自体も、だんだん珍しいことになっているように思います。この方向でいくと少子化にはさらに拍車がかかってしまうかもしれません。
私たちが実際に動いていかないと、皆さんが持っているイメージや社会の雰囲気は簡単には変わらない。これだけ出産が遅くなってしまう社会を変えなくてはいけない、でも何もしなければ変わらないと思うんです。
浦安市と卵子凍結保存のプロジェクトをスタートしたのも、何か一石を投じれば何か変わるかも、という期待でしょうか。一石を投じると言えるほど、大きなことをしているとは思っていないですが、でも何もしないよりはいいでしょう。これくらいでは変わらないだろうけれど、一つの提言にはなるのではないかと期待もしています。
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この未受精卵子の凍結を始め、通常の不妊治療に対する補助や出産後のフォローなど、他の少子化対策と合わせて30億円を投入している浦安市。実施時のアンケートでは、全員が「もし助成がなく全額自己負担だったら、卵子凍結保存を決意できていなかった」と答えていました。
賛否両論がある中で、このプロジェクトを実行した浦安市の松崎秀樹市長。何が彼を動かしたのか。次回の記事では、松崎市長に決断の理由を聞きます
(撮影:今井 康一)
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