わが国の教え給いし歌、今聴きなおす木下惠介

国民的映画監督がメロディーに込めた、昭和日本の光と影

戦中のメロディにのせて、コメディの中の鋭い批評性

かくいうのは同作の2年前、1952年のカルメン純情す(私の一番好きな作品だ)で、木下がまさにそのことを鋭く批評しているからである。

独立直後の再軍備ムードを風刺した政治コメディだが、封建的な婦女道徳の復活を唱える陸軍中将未亡人が調子はずれの「君が代」を歌う。

ところが、当の彼女の娘が札つきの遊び人で醜聞まみれなものだから、母親が極右政党から選挙に出ても通らない。今度もまた落選かと震え上がるシーンに「海ゆかば」、複数の男を自宅に連れ込んだ娘と激しい口論になる箇所で「ああ、あの顔で、あの声で/手柄頼むと、妻や子が」(「暁に祈る」1940年発表、作詞:野村俊夫、作曲:古関裕而より引用 )の旋律が重なるのが笑いどころだ。

そして全6箱で出ているDVDの全集を視聴した限りでは、おそらく節のみでなく「海ゆかば」が実際に歌われたのは、まさしく戦時下の日本における集団の狂気を描いた『死闘の伝説』(1963年)が唯一ではないかと思う。

地元の名士の跡取りとの縁談を疎開者の娘が断ったことから村ぐるみのいじめが始まり、最後は相互に暴力の爆発に至る。その契機は、中国戦線で強姦・虐殺を行った過去が跡取り息子にあったこと、そして村からの出征者の大量死が発覚し、戦争遂行を支えた共同体の忍従が限界に達したことであった。

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