「冷戦を知らない子供たち」のために

歴史が進歩をやめた時代に、回帰し続ける記憶を生きる

終わりとともに、「始まった」はずだったものたち

著者:與那覇潤(歴史学者、愛知県立大学准教授) 撮影:今井康一

私たちが夢をみなくなったのは、いつからだろう。

1979年生まれの私は、1989年にちょうど10歳。小学校高学年で社会の動きが目に入り出す頃だから、「冷戦の終焉」を覚えている最後の世代だ。

前年から天皇崩御が予想され、「次の元号」の噂がクラスで飛び交っていた(結局、みんな外れた)。

国内では女性党首のおばさん率いる野党が選挙で与党を負かし、海外ではやたらと大きな壁が取り壊されて、わからないなりに何かが「始まった」ような気がしていた。

翌年、中東の軍人さんが侵略戦争を始めても、工作用紙でボードゲームにして遊ぶうちに、翌々年には多国籍軍が押し戻した。その夏、ヒグマみたいなおじさんが戦車に乗ってクーデター阻止を叫び、子供たちの人気者だった禿げ頭の大統領を取り返した(頭のあざが世界地図に見える、とみんな言っていた)。もっとも年末にその国が崩壊して本物の世界地図が塗り替わったときは、受験前に冗談じゃないよ、と思った。

中学生だった1993年、ついに自民党が下野した。おこづかいにも影響する消費税の導入以来、この党は子供のあいだで不人気だったし、小さな党がみんなで連立して大政党を倒したのが、ヒーローものの最終回みたいでカッコよかった。とにかくその頃までは、世の中とは時代につれて「よくなる」ものだと思っていて、目に映るすべてがまぶしかった。

そのあと起こったことについては、あまり語りたくない。ただそれでも、人類は進歩している、という感覚を日々の生活から自然に得ることができる、最後の世代にギリギリ乗っかれたことは、自分にとって財産だったと思っている。

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