「21世紀の最初の数十年間に、世界中の政治指導者は昔に戻すと繰り返し約束してきた」(255頁)。ある世論調査では、「ヨーロッパ人の67パーセントが世界は昔のほうが良かったと考えていた」(257頁)のだから当然だろう。
この調査ではノスタルジアを感じている人たちの53パーセントが自分は「政治的に右寄り」だと思っており、「移民とEUについて批判的な傾向」を示し、「78パーセントが最近の自国への移民は社会になじもうとしたがらないと考え、53パーセントは移民が『元からいる国民(ネイティブ)』の仕事を奪っていると信じていた。(…)またノスタルジアを感じている人のほうが失業率が高く、労働者階級を自認していた」(258頁)。
ノスタルジアは右派だけの専有物ではない
日本でも世論調査をしたら、たぶん同じことが起きるだろう。
その時に「政治的に右寄り」の人たちがノスタルジアの投錨点に選ぶのはたぶん大日本帝国の絶頂期だった昭和元年から17年までだと思う。
治安維持法があり、関東大震災での朝鮮人虐殺があり、満州事変があった時代にアイデンティティを持ち、「あの頃はよかった。あれでよかった」と思う人たちは、それによって現在の不安や不満を解消しようとしているのだろう。
英国ではブレグジットの半年前に行われた世論調査で「イギリス国民の44パーセントがイギリスの植民地主義の歴史を誇りに思い、43パーセントが大英帝国は良いものだったと考えている」(260頁)という結果が出た。
アメリカでも事情は同じだ。ドナルド・トランプの支持層とノスタルジアの強度の間には相関が認められる。(261頁)それも当然で、1959年の選挙の時に英国保守党が採用したスローガンは「Make Britain Great Again」だったのだから。
America Firstというスローガンもトランピストの創案ではない。初出は大戦間期の米国内の「親独・反戦」派(America First Committee)が採用したもので、この運動のリーダーは大西洋単独飛行で知られたチャールズ・リンドバーグだった。彼は孤立主義に基づき、ドイツと中立条約を結ぶことを主張したのである。
だが、ノスタルジアは右派だけの専有物ではない。左派も時にはノスタルジックになる。
パリ・コミューンを革命の原点として懐かしむふるまいがそうだ。ユーゴスラビアはコミンフォルムから追放された後、労働者の自主管理による分権的な共同体を通じた「純粋な社会主義」を目指した。「一つが約1万人で構成されるこの生活共同体は、国家ではなく国民の政治的ニーズと権利にしたがって統治されることになっていた」(269頁)
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