「ノスタルジア」が世界を滅ぼしかねない理由 「昔はよかった」が孕む甘い罠 ポピュリスト政治家が利用する「人民の新しいアヘン」の正体
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1989年、「ベルリンの壁」崩壊時のブランデンブルク門。ドイツでは、共産主義時代の東ドイツの生活に対する「ノスタルジア」現象を、ドイツ語の「Ost(東)」と「Nostalgie」を組み合わせた造語で「Ostalgie(オスタルギー)」と呼んでいる(写真:アランスミシー/PIXTA)
「昔はよかった」と、私たちはどれだけ口にしてきただろうか。過去を美化し、現在を嘆くこの感情は、単なる個人的な感傷にとどまらない。ときに社会を動かし、政治を左右し、文化を形成する強力な力ともなる。歴史学者アグネス・アーノルド=フォースターの新刊『ノスタルジアは世界を滅ぼすのか:ある危険な感情の歴史』は、この感情の複雑さと変遷をひもとき、その危険な側面と意外な効用を明らかにしている。なぜ、ノスタルジアはそれほどまでに私たちを惹きつけるのだろうか。
苦く、甘く、そして不確かな記憶
辞書を引くと、ノスタルジアは「ある過去の一時期もしくは回復できない状態に戻りたいと願ったり、過剰な感傷を込めて憧れたりする」感情と定義されている。
心理学の観点では、「過去を志向する認知と複合的な感情的特徴をともなう複雑な感情」、平たく言えば「過去に対するほろ苦くも甘い気持ち」とされる。
ノスタルジアは、単に過去を思い出す以上の意味を持つ。
記憶はしばしば不確かであり、私たちは意図的に、あるいは無意識に過去を操作し、今の価値観に沿うように再構築することがある。
ノスタルジアは、この再構築の一部であり、出来事に感情をたっぷりと注ぎ込み、バラ色の光で包み込む。
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