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「治水も利水も」ーー利害対立から両立へ大転換する「流域総合水管理」の新潮流とは?深刻な<水クライシス>起きた愛知県が先駆け

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愛知県・岐阜県の県境にある矢作ダム(写真: asatarou / PIXTA)
水インフラの老朽化の同時多発と気候の極端化が重なり、洪水も渇水も「想定外」が常態化している(連載第1回)。2022年5月、愛知県で起きた明治用水の漏水が、トヨタ自動車の本社工場の一部停止やグループ企業工場の稼働停止へと波及したように、地域経済を直撃している。
この事態にどう対処していくのか。
いま求められているのは、個別の施設ごと「点の最適化」を図る従来の施策から、管理主体の枠を超え、「流域」というひとつの単位で捉え、洪水にも渇水にも同時に対応する施策への転換だ。
この「流域総合水管理」の先駆的な取り組みが、まさに“水クライシス”が経済に大きなダメージをもたらすことを明るみにした愛知県で進んでいる。
プロジェクトの全容と方向性とは。

愛知県は、約半世紀にわたり製造品出荷額などで全国1位を誇る誰もが知る産業県だ。それゆえに活発な経済活動には課題も付きまとう。

大きなものとして、温室効果ガスの排出がある。愛知県から発生する温室効果ガスの排出量は全国トップクラスだ。2022年5月の漏水事故以前から、地元経済界は愛知県に対し、カーボンニュートラルへの取り組みを求めていた。また、県内を流れる矢作川や豊川などの大きな河川では、これまで幾度も洪水や渇水などの災害に見舞われた歴史がある。

これらの環境や歴史を踏まえ、三河地域(矢作川、豊川の二流域)をモデルに、「水循環」をキーワードとして、森林保全・治水・上下水道・再エネ・省エネを官民連携で束ね、流域単位でカーボンニュートラルを実現しようとするプロジェクトが立ち上がった。

治水と利水、深刻な綱引き

2022年8月、愛知県知事をリーダーとし、流域市町長、国の出先機関、水資源機構、経済団体、学識経験者から成る「矢作川・豊川CN推進協議会」が設立された。「矢作川・豊川カーボンニュートラルプロジェクト」の最大の特徴は、多様なステークホルダーをとりまとめるこの推進体制にある。

よく組織においては縦割りの弊害などが叫ばれるが、水の世界でも、治水・利水・環境・エネルギーなどの領域で縦割りが常態化しているのが実情だ。「流域」という単位で取り組みを進めようとすると、治水と利水という目的の間で相反することが生じたり、それに起因して関係者間の調整が難航したりすることが多々ある。

わかりやすいのはダム運用だ。

洪水期に下流を守るにはダムの容量を空けておきたいが、渇水対策のためには可能な限り水を貯めておきたい。洪水対策=ダムを空ける、渇水対策=ダムを満杯にするという、目的自体がぶつかるような、単純だが深刻な綱引きが歴史的にも続いてきた。

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