「ノスタルジア」はなぜ儲かるのか  消費者の心をつかむ「古き良き時代」マーケティングの力 感情を収益に変える驚きの歴史と戦略

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田舎のバス停
「今よりも良かった時代」を懐かしむ感情が、「不都合な真実」を忘却させる可能性がある(写真: Rossi0917/PIXTA)
ノスタルジアは、単なる個人的な感情ではない。歴史学者アグネス・アーノルド=フォースターの新刊『ノスタルジアは世界を滅ぼすのか:ある危険な感情の歴史』は、この感情の複雑さと変遷をひもとき、その危険な側面と意外な効用を明らかにしている。ノスタルジアは、企業が顧客の心をつかみ、商品を売るための強力なマーケティングツールとしても進化してきた。1970年代に「ノスタルジア産業」が誕生して以来、広告業界は消費者の感情に訴えかけ、収益を生み出すためのノウハウを確立してきた。本記事では、広告におけるノスタルジアの歴史と、現代のマーケティング戦略におけるその役割をひもといていく。

ノスタルジア広告の黎明期

ノスタルジアを販売力に変える試みは、1970年代に本格的に始まった。

ノスタルジアは世界を滅ぼすのか: ある危険な感情の歴史
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イギリスのパンメーカー、ホーヴィス社が1973年に公開したテレビコマーシャル「自転車篇」は、その象徴的な成功例だ。

ドヴォルザークの交響曲「新世界より」をBGMに、少年がパン籠を乗せた自転車を押して急な坂を上り、帰りは軽快に坂を下っていくという内容だ。

このCMは、自家製パンを焼き、自転車で配達していた「過ぎ去りし時代」への郷愁を喚起し、大衆の心の琴線に触れた。

このCMは後に「イギリスの歴史の一瞬」を切り取った国民的人気CMとなり、現在でも「心温まるアイコニックなCM」として評価されている。

この時代、ノスタルジアを利用したのはホーヴィス社だけではない。

菓子メーカーのキャドバリー社は、「忘れたくないあの頃」というキャッチコピーで、昔ながらのパン屋やチーズ工房の映像を流し、視聴者の子供時代の記憶を呼び起こそうとした。

ハインツのトマトスープのCMも、「あなたの初めてのスープ皿を思い出してください」と視聴者に語りかけ、商品と個人的な思い出を結びつけた。

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