
ノスタルジア広告の黎明期
ノスタルジアを販売力に変える試みは、1970年代に本格的に始まった。
イギリスのパンメーカー、ホーヴィス社が1973年に公開したテレビコマーシャル「自転車篇」は、その象徴的な成功例だ。
ドヴォルザークの交響曲「新世界より」をBGMに、少年がパン籠を乗せた自転車を押して急な坂を上り、帰りは軽快に坂を下っていくという内容だ。
このCMは、自家製パンを焼き、自転車で配達していた「過ぎ去りし時代」への郷愁を喚起し、大衆の心の琴線に触れた。
このCMは後に「イギリスの歴史の一瞬」を切り取った国民的人気CMとなり、現在でも「心温まるアイコニックなCM」として評価されている。
この時代、ノスタルジアを利用したのはホーヴィス社だけではない。
菓子メーカーのキャドバリー社は、「忘れたくないあの頃」というキャッチコピーで、昔ながらのパン屋やチーズ工房の映像を流し、視聴者の子供時代の記憶を呼び起こそうとした。
ハインツのトマトスープのCMも、「あなたの初めてのスープ皿を思い出してください」と視聴者に語りかけ、商品と個人的な思い出を結びつけた。
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