「人口減少」を悲観しすぎると、知恵が止まってしまう/経済成長に対する人口の寄与は大きくない
これまでの労働条件では人を雇えないことが「不足」と呼ばれることもあり、巷間では人口減が労働市場を介して経済に悪影響を与えていく話が悲壮感をもって語られている。
しかし私には、吉川洋氏(東京大学名誉教授)が『人口と日本経済』で述べた 「日本経済の将来は、日本の企業がいかに『人口減少ペシミズム』を克服するかにかかっている」 という論のほうが腑に落ちたりもする。というのも、経済成長に対する人口の寄与は、直感的に想像されるほど大きくないからである。
ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソローは、1957年の論文で、アメリカ経済の長期的な産出増加を成長会計によって分解し、その相当部分が、労働や資本といった投入量の増加では説明できない要因によるものであることを示した。
高度成長期の人口増の寄与はわずか0.4ポイント
この残差は「ソロー残差」と呼ばれ、後に全要素生産性(TFP)と呼ばれるようになる。日本の高度成長期においても、1960年代の実質GDP伸び率11.1%(年平均)のうち労働力で説明できるのは0.4ポイント程である試算もある(平成10年通商白書)。
TFPが捉えているのは、労働や資本の投入量では説明できない、「同じ人数・同じ資本で、どれだけ賢く働けるか」という部分である。その内実は、狭義の技術進歩に限られない。
新しい財やサービスの創出、規模の経済や範囲の経済の活用、工程や組織の改善による効率化、市場開拓、さらには人的資本の蓄積としての教育・技能形成など、制度・組織・人材を含む幅広い要素がTFPの中に集約されている。
組織や制度の見直しによって意思決定の速度と質を高め、人材の能力やアイデアが中枢で発揮される環境を整えることも、TFPを高めるうえで重要である。
こうした工夫の積み重ねこそが成長の原動力であり、労働力の「量」そのものが成長に与える寄与は、実は大きくない。となれば、人口が減少することが即座にペシミスティックな話なのか、という根本的な疑問が生じる。


















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