「人口減少」を悲観しすぎると、知恵が止まってしまう/経済成長に対する人口の寄与は大きくない

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年金でもそうである。厚生年金は、より高い賃金で、より長く働けば給付が増えるように設計されている。その制度の下で「支え手を増やす」という言葉が広まれば、将来の「給付」側面が見えないままに保険料の負担という側面ばかりが強く意識されるようになり、いわゆる年収の壁を過度に信じて、生涯の資産形成に関する判断を誤る人が増えかねないし、適用拡大が「支え手を増やすため」と報道されることを招くことになる。

年金を論じる際に「支え手を増やす」という表現を用いないよう言い続けてきたのは、年金は自分で作るものであり、厚生年金への加入は、誰か他の人のためではなく、自分の将来のためであることをわかってもらうためである。

とはいえ、経済成長を「供給」から捉える立場の人々は、成長会計に基づいて労働と資本がフル稼働するとの前提に立つ潜在成長率の観点から経済を見ることになる。その枠組みに依拠する限り、労働力が減れば生産力も自動的に低下すると理解しがちである。しかし経済史は、現実の経済が必ずしも潜在成長率で説明される通りに推移してきたわけではないことを示してきた。むしろ逆である。

人口増の寄与が少なくてなぜ高度成長できたのか

労働力が減少しても、成長の芽が直ちに摘み取られるわけではない。企業が人口減少を過度に悲観するのではなく、新たなニーズを発見し、需要を創り出していくならば、生活水準が伸びる余地は十分に残されている。重要なのは労働力の「量」ではなく、労使双方の知恵と工夫の力である。

「アメリカに追いつけ」を合い言葉とした高度成長期には、三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)、新三種の神器(カラーテレビ、クーラー、自家用車)に代表される需要が次々と創出された。同時に、新たな生産方式や組織の在り方が導入され、経済成長を力強く支えた。

今日、賃金の上昇局面を迎えて、「生産性の向上」の必要性が頻繁に語られるが、その中身が十分に理解されているかについては、やや疑問が残る。

生産性の向上とは、単なる労働投入量の削減や効率化でなく、シュンペーターオリジナルに従えば、①新しい財の導入、②新しい生産方式の導入、③新しい市場の開拓、④原材料の新たな供給源の獲得、⑤新しい組織の創造——すなわちイノベーションは、労使双方の知恵と工夫によって実現する、いわばダイナミックな進化の過程そのものである。

これまで日本では、安価で豊富な労働力が長く準備されてきたこともあり、イノベーションが後回しにされてきた側面がある。人口減の進行とともに労働市場が弛緩から逼迫に転換してきている。私には、諸悪の根源は労働市場、諸善の根源も労働市場に見えるが、構造的な労働力の希少性の高まりの中で、イノベーションが今まさに動き始めなければならなくなってきていると捉えるならば、日本の未来は決して暗いものではない。

こうした経済史に根ざした思考のほうが、過度な人口減ペシミズムよりも自身の性分にしっくりと合う。

そして、過度に悲観しない期待形成を通じて、投資判断において単に金利の水準だけで決まるのではなく、将来どの程度の収益が得られると見込まれるかという期待収益率に基づく投資を促し、その結果として社会全体をより健全な方向へ導く可能性を持つ。

逆に、あらゆる不都合が人口減少に帰せられるようになると、成長の源泉が、知恵と工夫の力に支えられたダイナミックな変化にあるという本質的な認識は、いつの間にか視界の外に追いやられてしまう。そうした状況の下では、救済的論理が前面に出やすくなり、先駆けて動いた者ほど不利な立場に置かれるという、成長とは逆のインセンティブ構造が生まれやすくなる。「人口減少で悲観しすぎると、知恵が止まる」とは、そういう意味である。

権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授

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けんじょう よしかず / Yoshikazu Kenjoh

1962年生まれ。2002年から現職。社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。著書に『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障 増補版』、『ちょっと気になる医療と介護 増補版』など。

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