松下幸之助、稲盛和夫、藤田田、孫正義… 名経営者たちの金言に学ぶ「増長する若手社員」を上手に遇する社内処世術

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

日本の職場では、発言の前に沈黙がある。これは、ただ黙っているのではなく、相手の立場や場の空気を考え、言葉を整える時間だ。その中身は、深く分析、洞察し、納得性の高い内容でなくてはならない。そして、論理的で説得力に富んだ表現で発言できるように準備しておくことが前提だ。

その発言には責任が伴うという意識があるからこそ、言葉に重みがある。中間管理職は上と下の間に立ち、場を整え、対話の質を高める役割を担う。加えて、発言の高度な「品質管理」役も兼任している。

心理的安全性が確保されたからといって、自由に何を言ってもいいわけではない。相手への敬意、場への配慮があってこそ成り立つ。日本企業には、こうした文化がすでに根づいていた。礼節とは形式ではなく、相手への敬意と場への配慮である。

日本企業の多くには、すでに心理的安全性の要素が備わっていた。沈黙を通じた配慮、発言に対する責任感、そして、安心して意見を言える雰囲気をつくる中間管理職の存在。これらは「心理的安全性」の理論と一致している。心理的安全性は、言葉としては目新しく感じるかもしれないが、その本質は、日本企業、いや日本文化の中に昔から息づいていたものなのだ。

茶道における「ふり」の重要性

組織における日本文化の長所を考えるうえで、茶道の精神を再考してみたい。8月14日に102歳で逝去した、裏千家の千玄室家元の教えだ。

戦争を体験した千氏にとって、茶道は平和哲学そのものだった。茶を介して互いを敬い、譲り合う心があれば、国同士の争いも避けられると考えていた。茶を勧める際の「どうぞ」という心こそが真のもてなしであり、世界に伝えるべき日本の精神だと語っていた(詳細は8月16日配信「『茶道は未来をつくるためのもの』、千玄室氏が102年の生涯で伝え続けた《和敬清寂》の精神」を参照)。

完璧な人間など存在しない。職場に限定しても同様である。主要な伝統宗教でさえ、人間の不完全さを前提にしている。だからこそ、互いの短所を受け入れ、長所を生かす姿勢が求められる。これは、AI(人工知能)には代替できない、人間的な営みだ。

とはいえ、すべての人と円滑に関係を築くのは容易ではない。一度相手に苦手意識を持つと、その短所ばかりが目につく。そこで人間は、「認め合うふり」という知恵を身につけた。これは妥協を前提とした「人生という舞台での演技」であり、一種の処世術ともいえる。

次ページ現代の職場環境はまるで戦国時代
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事