松下幸之助、稲盛和夫、藤田田、孫正義… 名経営者たちの金言に学ぶ「増長する若手社員」を上手に遇する社内処世術
これは、社会との間に軋轢を生むことを避けるための防衛戦略であり、「大人の社会」の見えざる掟(おきて)だ。不完全な存在である人間が人工的に創り管理している企業組織には、悪しき不条理が笑顔の裏側に潜んでいる。
攻撃型の若手社員は、この「大人の社会」の不条理まで十分把握していないようだ。彼らは一見、意見を臆せず主張するが、目先の目的達成を優先し、人間関係の複雑さや組織の暗黙のルールを無視している可能性がある。中長期的な損得を見通す力が欠けている可能性がある。セルフブランディングの失敗という見方もできる。
高校生時代の孫正義と藤田田のエピソード
真の成功者は、この「大人の社会」のルールを理解し、その中でどのように振る舞うべきかを熟知している。この傾向は、JTC(Japanese Traditional Company=伝統的日本企業)と呼ばれる大企業内に限ったことではない。成功しているスタートアップ創業者も、意外と目上の人との付き合いが上手である。
その一例が、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏だ。筆者は20代だった頃から孫氏を知っているが、祖父と孫ほどの年齢差がある大企業経営者の支援を受けてきた。その一例として、次のエピソードを紹介しよう。
これは、東京大学の学生時代に起業し、その後、日本マクドナルドを立ち上げて大成功した藤田田(でん)氏から聞いた話だ。
「名も知らない孫正義という高校生が、九州から日本マクドナルドの本社(東京)に、アポなしで突然訪ねてきました。秘書が『藤田さんの本を読んで感動しました。社長にお会いしたい、と言っています』と。忙しかったので、私は面会を断りました。それでも懲りもせず何度も来るので、会うことになりました。すると、孫君はこう言いました。『僕は、アメリカに留学して、将来、会社をつくって、藤田さんみたいになりたいのです。そのためには、これからどのような分野に進めばいいのでしょうか』。私は『短期間に形が変わるものに挑戦しなさい。たとえば、コンピューターです。以前は、大きな部屋を占領していましたが、今や小さな箱になり、成長産業になっているでしょう』とアドバイスしました。すると孫君は、『ありがとうございます。僕は、留学後に必ず会社を起こします。そのときは、藤田さんに、ごあいさつに参ります』と言い残して帰りました。
その後、カリフォルニア州立大学バークレー校に留学し、在学中に彼は自動翻訳機の技術をシャープに売り、大金を手にしました。その資金を元手にして、卒業後、帰国し、(1981年に)日本ソフトバンク(現・ソフトバンクグループ)を設立しました。そのとき、約束どおり、私のオフィスに再び現われ『藤田さんにご指導いただいたとおり、短期間に形が変わりそうなパソコンに注目しました。そこで、パソコンソフトの卸を始めることにしました』とあいさつしたのです。行動は大胆ながら、謙虚で礼儀をわきまえた青年でした」
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