「東インド会社への復讐」画策した男の悲しい末路 世界初の空売りはどう行われた?歴史振り返る
〈敵のスパイ〉(VOCが負けるほうに賭けている人々)対〈寡婦と孤児〉(株主)について、オランダの議会は世界の歴史上あらゆる議会が行ってきた手を打った。
つまり、一応〈寡婦と孤児〉側に配慮したように見える手を打ったのだ。1610年2月、議員たちは投資家に対して、現在所有していない株を将来売却すると約束することを禁止した。言い換えれば、ル・メールの策略を違法行為としたのだ。
株はすぐ上昇、策略は失敗に終わる
すぐさまVOC株は上昇し始めた。ル・メールの仲間の中から破産する者も現れた。ル・メールは膨大なカネを失った。策略は失敗に終わった。取締役たちはハッピー・エンドを迎えた。
だが! ル・メールのチームがVOCについて言っていたことが真実だったとしたら? 株価が下がって当然の理由があったとしたら?
政府がVOCの負けに賭ける人々にどう対処しようか決めかねていたとき、株式仲買人のグループ(その中にはル・メールの仲間もいたかもしれない)が、株価の下落は経営があまりうまくいっていないためだと主張した。「必要以上に多くの船舶が航海に送り出されていることは誰もがよく知っている」と、彼らは書いている。
ル・メールは、ある政府高官への手紙で、座礁したり行方不明になったりしたVOCの船舶による総損失額を書き記している。さらには、なんとか帰国できた船舶でも、運搬してきたメースと呼ばれる香辛料の在庫が多すぎて、他の種類のものの在庫が不十分という状況にあった。どんどん品質が低下していく売れ残りのメースが倉庫に放置されていた。
VOCの株価下落に賭ける人々は、ル・メールに言わせると「日々入手するニュースと情報にもとづいて……株の売買に携わる」投資家にすぎなかった。
取締役たちは「株のかなりの部分をかなりの高値で」買っていた、とル・メールは書いている。取締役たちは、寡婦や孤児を守るために空売りを禁止しようとしていたのではなく、自らをさらに金持ちにするために禁止しようとしていた、と。
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