「東インド会社への復讐」画策した男の悲しい末路 世界初の空売りはどう行われた?歴史振り返る

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VOCに復讐するために、ル・メールは地元の穀物商が長年利用してきたテクニックを使った。2人の人間が、将来あらかじめ決めておいた日にちに、あらかじめ決めておいた価格で売買すると合意する。

たとえば、ある商人が今日から1年後に1ブッシェルの小麦を100ギルダーで買うと約束するとしよう。これを先物契約(先物取引)というが、現代ではこれと同じような契約の取引で何兆ドルも稼ぎ出す人々がいる。

ル・メールは密かに共謀者らとチームを組んでVOC株の先物契約を結び始めた。1608年10月、ル・メールと協力する取引業者がアムステルダムのダイヤモンド商と契約を結んだ。

ル・メールの取引業者は1年後に145ギルダーで1株のVOC株をダイヤモンド商に売却すると合意した。つまり、契約の執行時にVOC株が145ギルダーよりも低い価格で売買されていた場合、ル・メールは公開市場で株を買い、即座にそれをダイヤモンド商に売れば利益を得られる、ということだ。

多くの株取引を成立させたル・メール

そして、株価が低ければ低いほど、ル・メールの利益は大きくなる。ル・メールはこうした取引を多数こなし、やがて当初、自分が実際に所有していた株より多くの株の取引を成立させた。株価が大きく下落すれば大儲け、高騰すれば破滅だ。

そこでル・メールは株価の下落を画策し始めた。アムステルダムの共謀者たちはVOCが問題を抱えていると噂を広めた。経費を使いすぎている。船があちこちで沈没したり、敵に拿捕されたりしている。みんなが思っているほど利益を上げていない。そんな調子の噂話だ。そして思惑どおり、VOCの株価は下落し始めた。

会社の取締役たちはル・メールが関わっていることを知らなかったが、誰かが株価の下落に賭けていることはわかっていたし、会社について悪評が流されていることも耳にしていたし、株価が下落していることも知っていた。

VOCはオランダという国家の誇りと国際的な競争力の源だった。国家のために(そして、自身がVOC株に投資した莫大な個人資産のために)、取締役たちは会社への攻撃を停止させようと決断した。

取締役たちは議員に訴えた。株価下落を狙う「汚れた陰謀」が進行中だと告げ、背後に外国のスパイが潜んでいる可能性をほのめかした。「有力な売り手の中に国民の敵の共犯者がいる」と彼らは書いた。

国民の敵による汚れた陰謀だけでは議員の注目を得るのに十分ではない場合に備えて、取締役たちはさらにこう付け加えた。犠牲者にはVOC株を所有する「多くの寡婦や孤児」も含まれる、と。

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