「人の脳年齢は1日眠らないだけで老化」は"真実" 「神経細胞は一度死んだら戻らない」は実はウソ

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結果は先述した通りで、一晩眠らなかった場合は、ちゃんと睡眠をとったときと比べて、平均で1~2歳老けていると、brainageRが推定しました。幸いなことに、この老化現象は一晩眠ったらなくなりました(※外部配信先ではグラフを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

睡眠不足で脳年齢が老ける

この研究では一晩の睡眠不足でしたが、継続的な睡眠不足による脳年齢の変化も、そのうちデータが発表されると思われます。おそらく結果は、一晩よりももっと老化が進むことになると予測されます。

睡眠不足は「孤独」にも関係する?

これからの人間の健康には、単に平均寿命が長いだけではなく、幸福感や満足度の高い生活、いわゆるウェルビーイングが、大きな課題です。孤独や社会的孤立は、喫煙や運動不足、飲酒よりも、死亡率やウェルビーイングに悪影響を及ぼします。

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睡眠不足と孤独、社会的孤立の間には、双方向の関係があることが注目されています。

睡眠不足の人が、見知らぬ人が自分に向かって歩いてくるビデオクリップを見たときに脳スキャンをとると、人間がパーソナルスペースを侵害されたと感じたときに活性化する神経ネットワークが活性化し、強い拒否感が見られました。それだけでなく、睡眠不足は、社会的関与を促す脳活動も鈍らせてしまうという結果が出ました25

睡眠不足になると、外見からも他人から敬遠されるようにもなります。睡眠不足によって強まる社会的孤立傾向も、脳の老化を促進している可能性大です。その意味で、脳を若々しく保っておくことは、非常に重要です。

そのためにも、その人に合った十分な睡眠時間の確保や、あるいは睡眠時無呼吸症候群などの早期発見と治療などが、より大切になってくると思います。


[註5]人のニューロン新生については、動物実験と同程度のニューロン新生があるという説が有力であった。しかし、近年において、人でのニューロン新生は極めて少なく、一定年齢で止まると結論する論文もあり、人間でのニューロン新生については結論がまだ出ていない。

⑫Kempermann, G., Gage, F. H., Aigner, L., Song, H., Curtis, M. A., Thuret, S., Kuhn, H. G., Jessberger, S., Frankland, P. W., Cameron, H. A., Gould, E., Hen, R., Abrous, D. N., Toni, N., Schinder, A. F., Zhao, X., Lucassen, P. J., & Frisén, J. (2018). Human Adult Neurogenesis: Evidence and Remaining Questions. Cell Stem Cell, 23(1), 25-30. https://doi.org/10.1016/j.stem.2018.04.004
⑬Li, W., Ma, L., Yang, G., & Gan, W. B. (2017). REM sleep selectively prunes and maintains new synapses in development and learning. Nat Neurosci, 20(3), 427-437. https://doi.org/10.1038/nn.4479
Zhou, Y., Lai, C. S. W., Bai, Y., Li, W., Zhao, R., Yang, G., Frank, M. G., & Gan, W. B. (2020). REM sleep promotes experience-dependent dendritic spine elimination in the mouse cortex. Nat Commun, 11(1), 4819. https://doi.org/10.1038/s41467-020-18592-5
Long, Z., Cheng, F., & Lei, X. (2020). Age effect on gray matter volume changes after sleep restriction. PloS one, 15(2), e0228473. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0228473
㉑Voldsbekk, I., Groote, I., Zak, N., Roelfs, D., Geier, O., Due-Tønnessen, P., Løkken, L. L., Strømstad, M., Blakstvedt, T. Y., Kuiper, Y. S., Elvsåshagen, T., Westlye, L. T., Bjørnerud, A., & Maximov, II. (2021). Sleep and sleep deprivation differentially alter white matter microstructure: A mixed model design utilising advanced diffusion modelling. Neuroimage, 226, 117540. https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2020.117540
㉒Voldsbekk, I., Bjørnerud, A., Groote, I., Zak, N., Roelfs, D., Maximov, II, Geier, O., Due-Tønnessen, P., Bøen, E., Kuiper, Y. S., Løkken, L. L., Strømstad, M., Blakstvedt, T. Y., Bjorvatn, B., Malt, U. F., Westlye, L. T., Elvsåshagen, T., & Grydeland, H. (2022). Evidence for widespread alterations in cortical microstructure after 32 h of sleep deprivation. Transl Psychiatry, 12(1), 161. https://doi.org/10.1038/s41398-022-01909-x
㉓Lo, J. C., Loh, K. K., Zheng, H., Sim, S. K., & Chee, M. W. (2014). Sleep duration and age-related changes in brain structure and cognitive performance. Sleep, 37(7), 1171-1178. https://doi.org/10.5665/sleep.3832
㉔Chu, C., Holst, S. C., Elmenhorst, E. M., Foerges, A. L., Li, C., Lange, D., Hennecke, E., Baur, D. M., Beer, S., Hoffstaedter, F., Knudsen, G. M., Aeschbach, D., Bauer, A., Landolt, H. P., & Elmenhorst, D. (2023). Total Sleep Deprivation Increases Brain Age Prediction Reversibly in Multisite Samples of Young Healthy Adults. J Neurosci, 43(12), 2168-2177. https://doi.org/10.1523/jneurosci.0790-22.2023
㉕Ben Simon, E., & Walker, M. P. (2018). Sleep loss causes social withdrawal and loneliness. Nature Communications, 9(1), 3146. https://doi.org/10.1038/s41467-018-05377-0

西多 昌規 早稲田大学教授 早稲田大学睡眠研究所所長 精神科医

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にしだ まさき / Masaki Nishida

東京医科歯科大学医学部卒業。ハーバード大学客員研究員、東京医科歯科大学大学院助教、自治医科大学講師、スタンフォード大学客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本老年精神医学会専門医など。専門は睡眠医学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケアなど。著書に、『休む技術』『休む技術2』(大和書房)、『悪夢障害』(幻冬舎新書)、『自分の「異常性」に気づかない人たち』(草思社文庫)などがある。

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