成人におけるニューロン新生は、海馬で生じます。海馬は、記憶や学習機能をコントロールする、いわば「記憶の司令塔」のような存在で、日常の出来事や学習して覚えた情報はすべて海馬に送られ、一時的に保存されます。
この海馬でのニューロン新生に関わる興味深い現象が、レム睡眠中に行われていることがわかりました。海馬の情報伝達は、ニューロンの樹状突起(細胞体から出ている突起)から飛び出す「樹状突起スパイン」という、棘(とげ)の形に似た部分で行われています。
情報のメッセンジャー的役割の樹状突起スパインは、レム睡眠のときだけ形成されます。そして、樹状突起スパインを除去したり、必要な樹状突起スパインだけ残したりする、樹状突起を整理する機能も、レム睡眠中に行われていることがわかりました13。
この樹状突起スパインが新しくつくられたり、逆になくなったりするのは、脳の発達や記憶の整理強化にとって大切です。レム睡眠がこの記憶の固定プロセスに重要であることは、細胞レベルで明らかになったわけです。
睡眠不足は、脳のいろいろな部分に、さまざまなダメージをもたらします。たとえば、
・神経線維が密に通っている白質の広範囲にわたる(良くない)変化21
・大脳皮質の広範囲にわたるニューロンの(よくない)変化22
・脳室の拡大(=脳の萎縮)23
など、ニューロンやグリア細胞を含めて、睡眠不足は、脳の細胞にはロクなことがないようです。
これらの研究は、脳MRIを研究者が多大なエネルギーを傾けて解析したものです。MRI画像の解析なんて脳科学者にしかわからない、と思われるかもしれませんが、もしかしたらわたしたち自身が、自分の脳の老化を可視化できるようになるかもしれません。
睡眠不足で脳は老化する
「新しいものを覚えられない」「人の名前が出てこない」「とにかく話が長い」「すぐにカッとしてしまう」
これらの特徴は、悲しいかな脳の老化現象の表れです。
脳神経系のダメージを身近に感じさせる脳の老化ですが、人間の脳は一晩眠らないだけで、1~2歳老けることが、新しい研究で明らかになりました24。
チューリッヒ大学やハーバード大学など、欧米の合同研究チームは、「brainageR」という機械学習アルゴリズムを用いて、睡眠不足の人の脳MRIから「脳年齢」を推定し、同じ人の一晩中眠ったあとの脳MRIと比較しました。ちなみにbrainageRは公開されていて、約4年先の脳年齢を正確に予測できることが確かめられています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら