「最期はこう過ごしたい」という希望を持ち、それを周囲に伝えるのは、とても大切なことです。
しかし、ときにそうした希望が独り歩きしてしまうと、希望が優先されるあまり、本来はできるはずの治療やケアがなおざりになってしまうケースがあります。
Aさんの例でいえば、自宅で大好きなペットと余生を過ごすことを優先して感染症の治療を受けなければ、“本人が患っているがん”ではなく、“全然違う感染症で亡くなってしまう”ことも十分に考えられました。
末期がんでも、感染症なら治せるかもしれません。終末期でも、具合が悪くなっている原因がもとの病気の悪化ではない場合、適切な治療によって一時的に小康状態を取り戻せることもあるのです。
ですから、「家に帰りたい」という希望があっても、「何が何でも家に帰る」と決断する前に、主治医に「治療によってよくなる見込みはありますか?」「治せる病気はありますか?」と確認しましょう。
「今何を優先すべきか」確認を
もちろん主治医も、それが病気の進行によるものなのか、あるいは何らかの治療によって一時的にでもよくなる可能性がある病気なのかは、患者さんやご家族に伝えているはずです。
しかし、特に終末期には「こうしたい」「こうさせたい」が先に立って混乱や思い込みが発生し、冷静に物事をが考えられなくなりがちなのも、また事実。最期まで“生ききる”ためにも、自分や家族が置かれた状況を客観的に把握し、「今何を優先すべきか」と、都度、優先順位をつけて考えることを、心に留めておくといいでしょう。
昨今、もしものときのために、自分が望む医療やケアについて考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する「人生会議(ACP:Advance Care Planning)」と呼ばれるアメリカ発の取り組みが、日本でも積極的に取り入れられるようになっています。
これには、最期をどこでどう過ごしたいか、延命治療や蘇生処置をどうするかといった、人生の最終段階についての本人の希望も含まれます。
終末期の患者さんの約7割が「意思決定が困難」ともいわれているだけに、終末期になる前に本人の意向や価値観について理解し、共有し合うことが大切とされています。
こうしたテーマは、「まだ先のこと」と後回しにしてしまいがちです。
しかし、誰もがいつか訪れるときに備えて、なるべく早い段階から、意思決定するための情報を集めておくのが、得策。特に延命治療の種類や意味は、早いうちから知っておいて損はありません。
いざというときになってから調べるのではなく、余裕があるうちに、何となくでも知識をつけておくことをお勧めします。
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