豪雨からウイーンを守った治水システムの「凄さ」 欧州第二の大河はなぜ洪水を起こさなかったか

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ドナウ川はウィーンを斜めに横切る最大の川だが、ウィーン市街地にはドナウ川の支流であるドナウ運河とウィーン川もある。これらの流れが1つでも決壊すると、ウィーン市内で多大な被害が出ることは、火を見るより明らかであった。

雨音と不安で眠れぬ夜が明けた15日、ニュースが飛び込んできた。

普段は高さ5~7mのコンクリート製護岸壁の底にちょろちょろと流れる程度のウィーン川が、濁流となってあふれかけている映像だ。

ウィーン川は市街地の地下鉄と並行しているので、線路が水浸しになった。ドナウ運河も、船着き場が浸水し、茶色い濁流が流れている。どちらが氾濫しても、街はパニックになるだろう。普段とまったく異なる川の姿に恐怖を覚えた。

高速道路に水があふれ、地下鉄が次々と運休し、鉄道が止まるニュースが駆け巡る。隣のニーダーエースタライヒ州は全土が災害地域に指定され、多くの住民が避難対象となるなか、ウィーンはどうなってしまうのか。

ここでは家の屋根だけが見える

隣の州に住む知人からも、被害の報告が相次ぐ。水道管があふれて地下室すべてが水没した家など、身近なレベルでも被害が絶えないという。消防は「人命救助を優先するため、地下室の浸水程度の被害では呼ばないでください」とラジオで呼びかけていた。

軍で働く知人には召集がかかった。土嚢(どのう)積みや救助作業のために、最も被害が大きい地域へ出動した。「ここでは家の屋根だけが見える」と家族に伝えた言葉は、災害の悲惨さを物語っている。

ウィーンでもいよいよ大洪水が起こるかと思われたとき、ドナウ川の水位が基準値を超え、遊水池ノイエドナウの水門が開けられたと発表された。ウィーンを洪水から救う伝家の宝刀が抜かれたのだ。普段は穏やかな深緑色の水をたたえるノイエドナウは、水門開放とともに茶色い濁流となり、轟音とともに流れていく。

ノイエドナウ
水門のバーが上がり、水がバーの下をくぐってノイエドナウに流れ込む(写真:筆者撮影)
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