そもそもクサウマ系のお店が少ない中で、独立希望者が修行できる店自体が少ないため、職人が育たないという現状もある。実際修行できたとしても、その技術は限りなく属人的なので、弟子が育つとも限らない。
アルバイトを雇って安定してお店を回していくには、寸胴鍋に決まった量の豚骨などの素材と水を入れ、毎日その都度煮込んで作る「取りきり」の技法でスープを作っていくしかない。豚骨ラーメンのチェーン店の多くは取りきりでスープを仕上げている。
「和」の馬場店主は、本場っぽい豚骨ラーメンを目指しながらも、取りきりと呼び戻しの良い部分を融合し、独自のハイブリッドな豚骨スープを仕上げているが、それでもその作り方が属人的であることには変わりはない。
豚骨ラーメンには厳しい時代背景
(4)「博多豚骨ラーメンは安い」というイメージ
さらにクサウマ系が広がらない大きな理由は、「現地の博多豚骨ラーメンは安い」というイメージだ。現地・博多ではラーメンがとにかく安く、500~600円で食べられることは当たり前で、安いところだと200~300円台というところもある。「1000円の壁」と戦っている都内のラーメン店において、この常識は大変厳しい。
「安価なイメージがあるため、利益を出しにくいとハナから敬遠されている可能性も高いと感じます。昔よりガス代やゴミ処理代が高騰しているので、その意味でも豚骨ラーメンには厳しい時代です」(元「きら星」星野さん)
「骨もたくさん使いますし、炊き続けるためガス代もかなりかかります。さらには卓上に紅ショウガや辛子高菜、ニンニクなど無料トッピングをたくさん用意しなくてはならず、このコストも考えると安く提供することは難しいです。はっきり言って店主が好きじゃないとできないですね」(「和」馬場さん)
東京・高田馬場にある「博多ラーメン でぶちゃん」の店主・甲斐康太さんは、博多豚骨ラーメンの「安い」というイメージを覆すべく、大胆な価格戦略に出ている。昨年2023年12月から博多ラーメンを1100円に値上げし、わずか2年間で6割の値上げを行っている。
「人件費の問題、炊きっぱなしのガス代の問題、原材料費の高騰など総合的に考えると、安く提供することは不可能です。安いの裏側には何があるのか。
従業員にブラックな長時間労働を強いたり、安い賃金で働かせたり、食材の業者を叩いたりしない限り、実現することはできません。客のためと思って企業努力しているんだと思いますが、その方向が間違っているんです」(「でぶちゃん」甲斐さん)
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