夕顔 人の思いが人を殺(あや)める
だれとも知らぬまま、不思議なほどに愛しすぎたため、
ほかの方の思いが取り憑いたのかもしれません。
五条の宿を思い出しては
静かな夕暮れだった。空の景色もしみじみとしていて、枯れはじめた庭の草木から、鳴き嗄(か)れた虫の音が細く聞こえてくる。紅葉(もみじ)も次第に色づきはじめている。絵に描いたようなみごとな庭を眺め、思いがけなく高貴な宮仕えをすることになったと右近はしみじみ思い、あの夕顔の咲く、五条の宿を思い出しては恥ずかしくなる。竹藪(たけやぶ)の中で家鳩(いえばと)という鳥が野太い声で鳴くのを聞いて、光君は、あの家でこの鳥の声を女がひどくこわがっていたのを、ありありといとしく思い出す。
「あの人の年はいくつだったの。ふつうの人とはなんだか違って、今にもすっと消えてしまいそうだったのは、長くは生きられないからだったのかな」光君は言う。

















無料会員登録はこちら
ログインはこちら