夕顔 人の思いが人を殺(あや)める
だれとも知らぬまま、不思議なほどに愛しすぎたため、
ほかの方の思いが取り憑いたのかもしれません。
彼女の後世を阿弥陀仏に託す
光君は、あの女の四十九日の法事を、比叡(ひえい)の法華堂(ほけどう)で目立たないように、けれど格調高く行うことにした。寺に寄進する故人の衣裳(いしょう)をはじめとして、法事に必要な品々を用意し、心をこめて誦経(ずきょう)のお布施をさせ、経巻や、仏像の装飾にまで惜しみなく気を配った。惟光(これみつ)の兄である阿闍梨(あじゃり)は非常に高徳の僧だったが、彼がみなすべて請け負ってぬかりなく準備をした。みずからの学問の師で、親しいつきあいのある文章博士(もんじょうはかせ)を呼び、亡き人を御仏(みほとけ)に頼む願文(がんもん)を作ってくれるように頼んだ。どこのだれと名を明かすことなく、愛していた人が虚(むな)しく亡くなってしまったので、彼女の後世を阿弥陀仏(あみだほとけ)に託したいという趣旨の草稿を書いて光君が師に見せると、
「そっくりこのままでよろしいでしょう。加えるべきことは何もありません」と博士は言う。
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