ほかの女君たちには申し訳ないと思うものの
女房たちは事情を知らなかったが、翌朝、光君がこの箱を下げさせたので、そばに仕える者だけは思い当たることがあった。いつのまに調達したのか、餅を盛る皿もほかの道具類もうつくしい華足(けそく)の小机に載せられ、餅もみごとに作ってあった。少納言は、姫君がこんなふうに正式に扱ってもらえると思っていなかったので、身に染みてありがたく、光君のこまやかな心配りに、まず泣かずにはいられなかった。
「それにしても内々で私たちにお命じくださればいいものを。用意したあの人もどう思ったことかしら」と女房たちもささやき合っている。
それから後は、宮中や桐壺院の御所にほんのしばらく参上しているあいだでも、そわそわと落ち着かず、女君の面影が目の前にちらついて恋しく思う。そんな心を我ながら君は不思議に思う。それまで通っていた女君たちからは恨みがましい手紙が届くので申し訳ないとは思うものの、新婚の女君を一夜たりとも置き去りにするのは心苦しくてならない。出かけるのも億劫になって、気分がすぐれないということにして、「妻を亡くしたばかりでこの世がひどく厭わしく思えるのです。この時期が過ぎましたらお目にかかりましょう」と返事を書いて、日を過ごす。
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