若紫 運命の出会い、運命の密会
無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。
亡くなった尼君の心配事
三十日の忌みごもりも過ぎて、少女が京の邸(やしき)に戻ったと耳にし、しばらくたってから、光君は用事のない暇な夜に出かけた。見るからに荒れ果てていてひとけも少なく、幼い人はどんなにおそろしい思いをしているだろうと光君は思う。以前と同じ南の廂(ひさし)の間に案内され、少納言が尼君の亡くなった時の様子などを泣きながら話すのを聞くうち、他人(ひと)ごとながら光君ももらい泣きして袖を濡(ぬ)らした。
「父君の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)が姫君をお引き取りになるというお話ですが、姫君の亡くなった母宮は、兵部卿宮の奥方は本当に意地悪で思いやりのないお方だと思っていらっしゃいました。そんなところに、まるきり幼いというわけでもありませんが、人の振る舞いや考えなど、まだはっきりとご理解になれないような、どちらともつかずのお年で、大勢いらっしゃるという宮家のお子たちにまざって、軽くあしらわれながら暮らすことになるのではないかと、お亡くなりになった尼君も始終心配しておりました。確かになるほどそうかと思うこともたくさんありますので、このようにもったいない、あなたさまのかりそめのお言葉は、後々の思(おぼ)し召しがどうなるのかはともかく、尼君亡き今本当にうれしく存じます。けれども姫君はあなたさまに似つかわしいような年齢ではございませんし、実際のお年よりずっとあどけなくお育ちですので、まったくどうしていいものやら困り果てております」
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