御簾に手を差し入れ…暴風夜の光君の「大胆行動」 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫⑧

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ほかの大勢とは比べものにならないくらいかわいらしい女童に出会い…(写真:Nori/PIXTA)
輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。
NHK大河ドラマ「光る君へ」で主人公として描かれている紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。
この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第5帖「若紫(わかむらさき)」を全10回でお送りする。
体調のすぐれない光源氏が山奥の療養先で出会ったのは、思い慕う藤壺女御によく似た一人の少女だった。「自分の手元に置き、親しくともに暮らしたい。思いのままに教育して成長を見守りたい」。光君はそんな願望を募らせていき……。
若紫を最初から読む:病を患う光源氏、「再生の旅路」での運命の出会い
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若紫 運命の出会い、運命の密会

無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
 幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。

 

亡くなった尼君の心配事

三十日の忌みごもりも過ぎて、少女が京の邸(やしき)に戻ったと耳にし、しばらくたってから、光君は用事のない暇な夜に出かけた。見るからに荒れ果てていてひとけも少なく、幼い人はどんなにおそろしい思いをしているだろうと光君は思う。以前と同じ南の廂(ひさし)の間に案内され、少納言が尼君の亡くなった時の様子などを泣きながら話すのを聞くうち、他人(ひと)ごとながら光君ももらい泣きして袖を濡(ぬ)らした。

「父君の兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)が姫君をお引き取りになるというお話ですが、姫君の亡くなった母宮は、兵部卿宮の奥方は本当に意地悪で思いやりのないお方だと思っていらっしゃいました。そんなところに、まるきり幼いというわけでもありませんが、人の振る舞いや考えなど、まだはっきりとご理解になれないような、どちらともつかずのお年で、大勢いらっしゃるという宮家のお子たちにまざって、軽くあしらわれながら暮らすことになるのではないかと、お亡くなりになった尼君も始終心配しておりました。確かになるほどそうかと思うこともたくさんありますので、このようにもったいない、あなたさまのかりそめのお言葉は、後々の思(おぼ)し召しがどうなるのかはともかく、尼君亡き今本当にうれしく存じます。けれども姫君はあなたさまに似つかわしいような年齢ではございませんし、実際のお年よりずっとあどけなくお育ちですので、まったくどうしていいものやら困り果てております」

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