若紫 運命の出会い、運命の密会
無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。
その気持ちにほだされて
京に戻った光君はまず宮中に向かい、父帝にここ数日の話をした。光君を見て、本当にひどくやつれてしまったものだと帝は心配になる。聖の験(げん)の力がいかにすぐれているかと光君がくわしく話すと、
「阿闍梨(あじゃり)に任ぜられてしかるべき人物なのだろう。それほど修行の年功がありながら、朝廷で少しも知られていなかったとは……」と帝は尊敬をこめて言う。
ちょうど参上していた左大臣がやってきて、
「お迎えにと存じましたが、お忍びのお出かけですので、どうかと思って遠慮いたしました。私どもの邸(やしき)で一日二日、ゆっくりご休息なさいませ」と言う。「これから私がお供いたしましょう」
光君は気が進まなかったが、その気持ちにほだされて退出することにした。左大臣は自分の車に光君を乗せ、自分は末席に座る。こうして自分のことをだいじに世話してくれる左大臣の誠意を、さすがに心苦しく思うのだった。
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