若紫 運命の出会い、運命の密会
無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。
見舞いに立ち寄った「荒れた家」
秋も暮れようとする頃、光君はさみしくてたまらなくなり、ため息を漏らしていた。月のうつくしい夜、ようやく思い立って、ひそかに通っていたところに出かけた。時雨(しぐれ)がぱらついている。出かける先は六条京極のあたりで、宮中からだといささか遠く感じられる。道中、古びた木立が鬱蒼(うっそう)と茂り、ぽっかりと暗い庭の、荒れた家がある。毎度のお供の惟光(これみつ)が、
「ここがあの、故按察大納言(あぜちだいなごん)の家でございます。先日ついでがありまして立ち寄ってみましたら、あの山寺の尼君がひどくお弱りになられていたので、心配で何も手につかないと少納言が申しておりました」と言う。
「それはお気の毒なことだ。お見舞いすべきだったのに。どうしてそうと教えてくれなかったのか。入っていって挨拶しよう」
と君が言うので、惟光は使いを邸(やしき)に入れて、案内を乞うた。わざわざ源氏の君がお立ち寄りになられたと使いに言づて、その使いが入っていって「こうしてお見舞いにおいでになりました」と伝えると、女房たちは驚いて、
「それは困ったことです。このところ、尼君はすっかり回復の見込みもおぼつかなくなっておられますので、お目にかかることもできますまい」
と言うが、帰ってもらうのも畏れ多いことだと南の廂(ひさし)の間を取り片づけて、光君を案内した。
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