若紫 運命の出会い、運命の密会
無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。
あれきりにしようと決心していたのに
藤壺(ふじつぼ)の宮が病気にかかり、宮中を退出することとなった。心配し、気をもんでいる帝(みかど)の様子をいたわしく思いながらも、せめてこうした折にでもと光君は気もそぞろになり、他のどの女君をも訪ねることなく、内裏(だいり)でも自邸でも、昼間は所在なくもの思いにふけり、日が暮れると藤壺の宮についている女房、王命婦(おうみょうぶ)につきまとって藤壺と逢(あ)わせてくれるよう頼んだ。
そして、王命婦がいったいどのように策を弄したものか、無理な手立ての後にようやく逢うことがかなった。そうして逢っているあいだも、光君にはまったく現実のことと思えず、そのことがつらく感じられる。藤壺の宮も、以前の思いもかけなかった悪夢のような逢瀬(おうせ)を思い出し、あれ以来いっときも忘れることのできない悩みの種となったのだから、あれきりにしようと心底から決心していたのにと、情けない思いでいる。とてもつらそうな面持ちではあるものの、やさしく可憐な態度で接し、それでいて馴(な)れ馴(な)れしくはせず、奥ゆかしく気品ある物腰を崩さない。やはりこんなお方はどこにもいないと光君は思い、どうしてこのお方には少しの欠点もないのだろうかと、恨めしくさえなるのだった。
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