御簾に手を差し入れ…暴風夜の光君の「大胆行動」 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫⑧

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少納言の話を聞いて、光君は言う。

「これほど幾度もくり返し打ち明けている私の気持ちを、どうして素直に受け取ってくれないのですか。そのあどけないご様子が、本当にいとしくなつかしく思えますのも、前世からの格別な宿縁があるからだと私には思えてならないのです。やはり人づてではなく、じかに私の気持ちを申し上げたい。

あしわかの浦にみるめはかたくともこは立ちながらかへる波かは
(姫君にお目にかかることが難しかろうとも、このまま寄せては立ち返る波のように私が帰るとお思いですか)

このまま帰すなんて、あんまりでしょう」

「本当に、畏れ多いことでございます」と少納言は言う。

「なぞ越えざらむ」

「寄る波の心も知らでわかの浦に玉藻(たまも)なびかむほどぞ浮きたる
(打ち寄せる波のようなあなたさまのお気持ちを確かめもせず、和歌の浦でうつくしい藻──姫君が波になびくとしましたら、あまりに先行きが頼りないことでございます)

仕方がございません」

と言う少納言が前より打ち解けて見えるので、光君は少々大目に見ようかと思い、

「人知れぬ身はいそげども年を経てなど越えがたき逢坂(あふさか)の関(後撰集(ごせんしゅう)/人知れず気が急(せ)くけれど、何年たってもなぜ逢(あ)えないのだろう)」から、「なぞ越えざらむ(絶対逢ってやろう)」とつぶやいている。

それを若い女房たちはぞくぞくするような気持ちで聞いた。

その姫君は、亡き尼君を恋しがって泣きながら眠ってしまったが、遊び相手の女童(めのわらわ)たちが、

「直衣(のうし)を着た人がいらっしゃいましたよ。父宮がおいでなのでしょう」と言うので、起きて、

「少納言、直衣を着ている人はどこなの。父宮がいらっしゃったの?」と近づいてくる。その声がなんとも言えずかわいらしい。

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