「もう一度声を聞かせて」、光君の憔悴と女の最期 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・夕顔⑦

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粗末な板塀に白い花がひとつ、笑うように咲いている(写真:yasu /PIXTA)
輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。
NHK大河ドラマ「光る君へ」で主人公として描かれている紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。
この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第4帖「夕顔(ゆうがお)」を全10回でお送りする。
17歳になった光源氏は、才色兼備の年上女性​・六条御息所のもとにお忍びで通っている。その道すがら、ふと目にした夕顔咲き乱れる粗末な家と、そこに暮らす謎めいた女。この出会いがやがて悲しい別れを引き起こし……。
「夕顔」を最初から読む:不憫な運命の花「夕顔」が導いた光君の新たな恋路
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夕顔 人の思いが人を殺(あや)める

だれとも知らぬまま、不思議なほどに愛しすぎたため、
ほかの方の思いが取り憑いたのかもしれません。

 

「もはや最期」

日が暮れてから惟光(これみつ)がやってきた。光君が穢れに触れたというので、邸に参上する人々もみな着席することなく退出していき、邸はひっそりとしている。光君は惟光を呼び、

「どうだった、やはりだめだったのを見届けたか」と訊くやいなや、袖を顔に押し当てて泣き出してしまう。

「もはや最期とお見受けしました。いつまでも山寺に安置しておくのもよくありませんし、明日なら日柄も悪くないようですから、葬儀のことは知り合いの高徳の老僧に頼みこんでおきました」

と惟光は伝える。

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